サマナー爆誕
第18話
「いけっ! ビッグ・チレ! 魔物を倒せっ!」
「ゴオアアアアアアッ」
ハクトのかけ声とともに、口から炎を吐き出し魔物を焼いていく。
「飛べ! 次は、あいつを焼き鳥にしろ!」
「ドゥアアアアアアッ」
チレは赤い翼を広げ、大空を駆け巡り、命じられるままに敵を倒して回った。
眼下では救世軍の兵士らが歓声をあげている。
「すごいっ、今度の聖女様はサマナーでいらっしゃる」
「あのように大きな猛獣を使いこなすとは、何というすばらしい能力」
という声がチレの元にまで聞こえてきそうだ。現に彼らがそう噂しているのをチレは何度も耳にしている。
チレは大きな翼を広げ、雄叫びをあげながら敵を殲滅した後、ハクトに呼ばれて飛んで戻った。
今日のチレは巨大な翼を持った、爬虫類のような姿をしている。なぜこんな不気味な見た目なのかというと、ハクトが魔力でこの姿にしたからだ。
「どうせだったら、恰好いいほうがいいだろ?」
ということで、異世界に住むドラゴンという名の生き物に変形させられた。
ふたりがコンビを組んで魔物退治を始めて早十日。その間、ハクトはチレの姿を、最初はハムスター型から段々進化させ、次第に興に乗ったのか巨大化させ翼をつけたり角を生やしたりして、毎回不思議な見た目に変えてから出陣させるようになった。
おかげでチレは毎度、奇妙な外見に変身して魔物と戦うはめになっている。今日も巨大なドラゴン姿で、十数匹の魔物を休みなく退治させられ、満身創痍で崖の上で待つハクトの近くに降り立った。
「よーし、よくやった。戻っていいぞ」
という命令で、チレはしゅるるんっとルルクル人に変えられた。散々こき使われて疲労困憊だ。ゼーゼーと息を継ぐチレに対し、ハクトはすまし顔だった。
「何だか納得いかないんですけど……」
「何がだ?」
「私だけがいつもこんなに動き回って酷使されるのがです」
「何言ってる。俺だってお前に魔力を送ってるから疲れてんだぞ」
「そうでございますか……」
割とケロッとした表情をしているのでわかりにくかったが、ハクトもまた疲れているらしい。
「では、神殿に戻りましょうか」
「おう」
遠くで手を振る救世軍の兵士らにこちらも手を振って応えてから、ハクトはチレを抱きあげた。
「いくぞ」
というかけ声とともに、ハクトが空中へ飛びあがる。そのまま彼の腕の中に抱かれて帰殿した。
そして神殿に帰れば、チレは世話役の仕事に戻る。
急いで夕食の準備を整え、その間ハクトに一日の汚れを落とすための湯を使ってもらい、着がえを出して、食事になれば給仕もした。
「今日も一日、お疲れ様でございました」
ハクトの杯に酒を注ぎ、ねぎらいの言葉をかける。
「おう。お前もな。ちょっと飲め」
「いいえ、私めはまだ仕事中でございますので」
「いいから一杯ぐらいつきあえ」
「あ、はい。では」
聖女の命令には逆らえない。チレも葡萄酒をグーッと一杯飲めば、酔いが回っていい気分になった。
「あぁー、労働した後の疲れは心地いいなぁ」
などと言いつつ、ハクトは数杯の酒を飲んだ後、寝室へ移動した。そのままベッドに倒れこむ。
「ハクト様、お風邪を召しませぬよう」
チレが上がけをよいしょとかける。するとその手を取られた。
「はい?」
どうしたのかと思ったら、ハクトはチレをベッドの中に連れこんでギュッと抱きしめてきた。
「あぁ……お前、ふわもこで気持ちいいな……」
ローブをめくりあげて、腹のあたりに顔をよせてさすさすする。そして長い指でわしわしと被毛をかいた。
「……ぁ」
指先の感触がすごく気持ちよくて、どうにかなりそうになってしまう。
「ぁ、ぁの……、ハクト様、それは、ちょっと……」
「グー」
気づけばハクトはいびきをかいて眠っていた。
「……」
動くわけにもいかず、その場で固まる。ハクトはチレの腹を枕に気持ちよさそうにムニャムニャ呟いていた。
「……仕方ありませんね」
少しの間、このまま相手の眠りが深くなるのを待つことにする。じっとしていると、ハクトの温かな吐息がふわふわと被毛を揺らした。その感触に、どうしてか臍のあたりがモジモジしてくる。
なぜだろう。最近この人に触られると、心のどこかがおかしくなる。みぞおちがかゆくなって、胃や肺が熱く蕩けていきそうな感じになる。この不思議な現象は何なのか。
考えようとするも、チレ自身も相当疲れていた。シーツに沈む身体が段々重くなるのと、ハクトの体温が心地いいのに抗えず、すぐに一緒に眠りに落ちてしまった。
そして早朝、優しげな鳥の声に目を覚ますと、ベッド脇で召使いが目を剥いて立っていた。
「……あれ」
見ればハクトとチレはしっかり抱きあって寝ている。というかハクトがチレを抱きしめていた。
「えっと」
チレはハクトの手をほどいて、もそもそとベッドを出ると、こっそり召使いに耳打ちした。
「枕代わりにされただけです。皆には内緒にするように」
召使いはうなずいたが、ちょっぴり疑わしげな目も向けてきた。
変な奴だ。世話役と聖女がどうにかなるなど、あり得ないことなのに。
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