審議中

第17話

「どうやら先ほどの戦いぶりを見るかぎり、やはり聖女様の魔力はチレに移行してしまったようですな」

 聖女の居室はメチャクチャになってしまったので、皆は別の部屋に移動して話をした。

「世話役に魔力などありませんですしね」

 神官のひとりが言う。チレは魂の抜けた顔で椅子に腰かけていた。

「ではこれからどうしましょうか」

「とにかく早急に、魔力を聖女様に戻す方法を考えねばならない」

 神官らが頭をよせあって相談する。

「血の交換が原因ならば、また同じことをすればどうですか」

「それはふたりに怪我をしてもらい、傷口をあわせるということですか」

「では傷の具合は? あのときチレはほとんど死んでいましたが」

「攻撃魔力がすべて移行するほどの交換だ。生半可な傷では無理だろう。失敗すればチレは死ぬ」

「むぅ」

「待ってください。その理論でいくと、魔力を流しこむためには、受け取る側、つまり聖女様が瀕死の重傷を負わねばならぬことになりませんか」

「それはダメだ。そんな方法はとれない」

「ではちょっとずつ何回かに分けて怪我を負ってもらうというのは?」

 議論するルルクル人を、ハクトは冷めた目で見ていたが、急に机をドンと叩いた。

 神官らが驚いて静かになる。

「怪我をしなきゃ戻らないんだったら、俺は、このままでいい」

「えっ?」

「痛いのはごめんだ」

「そ、そうでございますか。し、しかし」

 ハクトは神官らを見渡して言った。

「さっきはちゃんと魔物を倒せただろう。できないわけじゃない」

「ということは、つまり……?」

「チレを使って、魔物退治を続ける」

 横で聞いていたチレは、目をパチクリさせた。

「私をですか?」

 ハクトが口角をあげる。

「おうよ。俺が命じて、お前が倒す。お前が俺の手足となって敵と戦うんだ」

「む、無理でございます」

 チレはブンブンと首を振った。

「けどそれしか方法はないじゃないか? お前、もう一回、こいつらに腹を割かれて死にかけたいか?」

 それにもブンブンブンと首を振る。

「だったらそれでいいだろ」

 チレはコクコクとうなずいた。痛くて死にかけるくらいなら戦うほうがマシな気がする。

 それを見ていた神官のひとりが言った。

「つまり、聖女様は、チレを使役のように扱ってお戦いになりたいということなのでしょうか」

「……ふむ。なるほど、そういう方法もないわけではないか」

しもべ使いの聖女となるわけですな」

 神官長が納得する。

「魔物を倒していただけるのならば、我らは手段を問いません。聖女様がそれでよろしいのであれば、我々はそれに従います」

「じゃあ、そうする」

 話はチレ抜きでどんどん進んでいった。

「では、当分の間、そのやり方でお願いいたします。我ら神官は書庫の文書を調べて、魔力を戻す手がかりがないか探してみます」

「おう。なら決まりだな」

 ハクトが賛成して、話しあいは解散となった。

 神官らが部屋から出ていくと、ハクトとチレだけが残される。チレはまだ事態がうまく飲みこめないでいた。

「……私が、魔物と、戦うのでございますか」

「そうだな。命令は俺が下す。でないとお前の攻撃は発動しないようだし」

「たしかにそうでしたけど」

 先ほどはハクトの命じるままに、身体が勝手に動いていた。まるで自分のものではないかのように。

 しかし世話役である自分がまさか最前線に立つことになろうとは。しかも口から火を吹きながら。

 けれどこうなってしまったからには戦わないわけにはいかない。この国の未来は、自分の肩にかかってしまった。

「……そういうことでございますか」

 チレは混乱しつつ頭を抱えた。

 聖女降臨から千年、こんな展開は前代未聞である。

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