たもつくん 第六話
ドトールは昨日と同じように閑散としていた。学生服が一組と本を読んでいる高齢者、あとはOL風の女性が一人、駅前とはいえ平日の昼間はこんなものなのだろう。
僕は四人掛けのテーブルに鞄を置きコーヒーを注文しにいく。昨日と同じ店員だった。相変わらず優しい笑顔を浮かべ、ゆっくりとした動作でアメリカンコーヒーを煎れてくれる。僕は相も変わらずその振る舞いに癒される。
実は今朝、たもつ君と話す機会があり、グループのみんなで話そうということになった。僕が望んだことだが急なことでもあり、心の準備が出来ているというわけでもない。正直、少し戸惑っている。緊張感は昨日みたいに緩まず、これから起こることを考えてしまう。
そして、たもつ君とあげはさんが16時ちょうどにやってきた。
「お疲れ様です」「待たせちゃってごめんなさい」
たもつ君とあげはさんは店の前で会ったらしい。僕がいることをわかっていたらしく、それぞれ飲み物を持ってきている。
「今日も疲れましたね」
相変わらずたもつ君は礼儀正しい社会人だった。
「本当に疲れたね。もうあの箱は見たくないわ」
「だいぶうんざりですよね。一日中はきつかったです」
「ずっと、○○のことを考えながらやってたわ。そうそう、私最近、○○にはまってるの。推し活ってやつ」
「○○人気ありますね。今度、イベントもあるみたいですよ」
「詳しいね。もしかして、たもつ君も推してるのかしら?」
「推しってほどではないですけど…好きですよ。男性でも楽しめるなと思います」
「さすがに推しなわけないか」
どっとが笑いが起こる。あげはさんとたもつ君のいつも通りのやり取り。そんな風景を見ていると僕が間違っているのかと不安になってくる。僕はその思いを打ち消すかのように、意を決して彼らの話に割り込む。
「ところでたもつ君。最近、少し雰囲気が変わったみたいだけどなんかあったの?」
「え?得には。そんなに変わりました?」
「私もたもつ君はだいぶ変わったように感じてる」
「そうですか…」
「そうそう、何かあったのかなって気になっちゃって…」
「そういわれてもなぁ…」
たもつ君はまさかの質問攻撃に少しうんざりしているようだった。誰だってそうだろう。正直、申し訳ない気持ちになるも僕は元のたもつ君に戻ってほしい。その思いでさらに一歩踏み込む。
「2×9=12もなくなっちゃったし」
「え?2×9=12?なんですか?それ」
僕とあげはさんは顔を合わせてしまった。
「ごめん、責めているわけじゃないんだ。何かあったのかなって気になっていただけなんだ」
「そうだったんですね。気にして頂いてありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」
「ところでさ、君は
一瞬まばゆい光が僕たちを包みこみ、次の瞬間、僕たちは草原の真ん中に立っていた。
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