たもつくん 第五話

 僕は部屋に帰るととりあえず窓を開けるという習慣がある。寒い日でも必ず開けるし、雨の日も少しだけ開ける。なんとなくだが、閉じ込められた空気に閉塞感を感じ、気分が沈むからだ。そして、窓際の「2480円」と「頑丈」という思い出しかない椅子に座りスマホをいじる。ここまでが僕の帰宅後のテンプレートだ。

 今日も例外なくいつも通りのルーチンをこなした。窓から入る風は冷たく、冬の到来を予感させる。

 


明日は晴れ、最高気温は16℃最低気温は8℃

※※市で人身事故が発生。加害者はそのまま逃亡

ラーメンが寿命を縮める

晩年も貧乏になる人(広告)


 スマホでニュースサイトをチェックするも役に立ちそうなものは天気予報だけだった。当たり前だが人鬼ひとおにを退治した英雄の話もなければ、人鬼に取りつかれた人の話もない。ラーメンが寿命を縮める?そりゃそうだろう。ニュースにするまでもない。

 僕は溜息をつき、ニュースサイトを閉じた。世の中には無駄な文章がはびこりすぎている。有益な情報はめったになく、僕たちは間違った情報に身をゆだねる哀れな子羊だ。そこには救済はなく、イエス・キリストも存在しない。神は紙になり、僕らはその紙に書かれている滑稽な振り付けで醜い踊りを踊る。なにが問題で何が間違っているのかさえ気づかずに。僕らは正しい振り付けを知ることがないのだろう。そう思うと悲しくなる。

「気分が沈んでいるとろくなことを考えないな…」

 僕は考えることもあきらめ「自然音ー小川のせせらぎと虫の音」という音楽をかけた。



 事故の犯人は下半身が魚のヤギでした。ヤギはラーメンを食べてるから寿命が縮むんだといい、空に帰っていきました。

 はっと我に返りまた頭を空っぽにする。小川のせせらぎが気持ちいい。


 実録!人鬼がヒトを食べた!!犠牲になったのは白鳥彰さん(38)

人鬼と思われていた物の怪は人鬼もどきでした。人鬼に擬態し捕食する、まるで蜘蛛とカメレオンを足して2で割ったような物の怪だったのです!



 僕はたもつ君と話すことが怖いのだろうか。うん。怖い。それは認めよう。僕はたもつ君と話すことに不安を覚えている。しかし、だからといってやれる準備もない。ならば、不安は不安のままでほっておこう。ラーメンのようにほっておいても伸びないから。

 ワタリと話したかったがあいにくワタリは現れなかった。僕はあきらめて熱目のお風呂に入り、スーパーで398円だったとんかつ弁当とインスタントのわかめスープを食べて寝た。夢の中でも僕は人鬼に襲われ食べられていた。

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