第33話 玲奈の視点(3):温泉で深まる違和感
温泉旅行は、サークルのメンバー全員にとって待ちに待った楽しみの一つだった。リラックスしてみんなで過ごすことができる機会であり、普段の忙しさから解放される時間でもあった。私も楽しみにしていたけれど、その一方で、彩香の存在がどうしても気にかかっていた。
温泉旅行の計画が立てられたとき、彩香は最初少し躊躇しているように見えた。他のメンバーたちは大はしゃぎで、早く行きたいと言い合っていたけれど、彩香はどこか迷いがあるような表情を見せた。
「彩香、温泉が苦手なのかな?」
私は心の中でそう思ったが、特に追及はしなかった。けれど、サークルで一緒に準備を進めている間も、彩香がどこか浮き足立たない様子でいることが気になり続けていた。
宿に着いた後、みんなでお風呂に行こうという話になったとき、彩香の表情が明らかに固まったことに気づいた。もちろん最初は、「疲れているのかな」と思ったけれど、彼女の動きにはどこかぎこちなさがあった。
私たちは一緒に温泉に入るため、浴衣に着替え、脱衣所へ向かっていた。桜は無邪気に「温泉楽しみ!」と言いながら歩いていたが、彩香はその後ろで静かに歩いていた。普段の彼女なら、桜の明るさにもっと反応するはずなのに、その時はほとんど口を開かなかった。
「やっぱり、何かが変だ…」
私はその時、彩香に対する疑念が一層強くなっていくのを感じていた。
温泉に入るとき、彩香は最後まで行動を遅らせていた。他のメンバーたちはリラックスして、温泉の温かさを楽しんでいたけれど、彩香はどうにかして私たちの目から逃れようとしているように見えた。
脱衣所での動作も、慎重すぎるほどの動きだった。彼女がタオルで体を隠しながら、誰かに見られるのを恐れているように感じられた。
私はその様子をじっと観察していたが、明らかに何かを隠そうとしていることがわかった。彼女の動きの一つ一つが、まるで誰かに見透かされるのを恐れているかのようだった。
何か見られたくない傷でもあるのか。サークルを離れていた期間を関係するのか。いろんな思いが私の中で交錯する。
温泉の中でも、彩香の動きはどこか不自然だった。普段なら、湯船にゆっくりと浸かってリラックスするものだけど、彼女は体を少しずつお湯に沈めながら、まるで誰かが自分を観察しているのではないかと警戒しているかのようだった。
「何かが…隠されているのかもしれない。」
私はその瞬間、確信に近い感覚を抱いた。彼女は何かを隠している。それが何かはまだわからなかったが、少なくとも彼女が普通の彩香ではないことは明らかだった。
私たちが会話しているときも、彩香は話に加わりながらも、どこか遠くを見ているような気配があった。言葉を選んでいるような、何かに気を使っているような、そんな感覚だ。
温泉から上がった後、私はさらに強い違和感を感じた。彩香が一番に脱衣所を出ていこうとしたとき、私の胸に疑念が確信に変わりかけていた。
「彩香…本当に彩香なの?」
その問いが頭から離れなかった。脱衣所での彼女の仕草や視線、そして周囲との距離感――全てが以前の彼女とは違っていた。そして、その違和感をさらに強めたのは、彼女が私と目が合った瞬間に、一瞬だけ目を逸らしたことだ。
「何かを隠している。」
その確信は、温泉旅行を通じてさらに深まった。彩香は私たちと一緒に過ごしながら、何かに対して強い不安を抱えている。それは彼女の態度や行動の端々に現れていた。
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