第32話 玲奈の視点(2):見え隠れする違和感

彩香がサークルに復帰してからしばらくして、私の中の違和感はさらに強まっていった。表面的には、彩香は昔と変わらないように見える。みんなと笑って、楽しそうに会話をしている。


けれど、彼女の言動には明らかに「作られた何か」が感じられた。それに気づいているのは、もしかしたら私だけかもしれない。


最初の頃は、私も彼女の変化を深く追求することはなかった。単に、サークルを離れていた影響で、少しぎこちなくなっているだけだと思おうとした。でも、何度も彼女と接しているうちに、その不自然さがますます顕著になってきた。


例えば、サークル活動中の雑談の中で、彩香が他のメンバーと何気ない会話をしているとき、彼女の返事や反応が以前よりも遅くなったことがあった。まるで、何かを計算しながら答えているかのような間。


それがほんのわずかなものだから、他のメンバーは気づかないかもしれない。けれど、私はその「一拍置く感じ」にすぐ気がついた。


「彩香、何か考え事でもしているのかな?」


そう声をかけたこともあった。彼女は少し驚いた表情を見せてから、すぐに微笑んで「ううん、ただちょっと疲れてただけ」と答えた。だが、その一瞬の間に、彼女の表情が一瞬固まったことを、私は見逃さなかった。


もう一つ、私が気になっていたのは彼女の声のトーンだった。以前の彩香は、もっと自然な声色で会話していたはず。だが、復帰してからの彼女の声には、どこか力が入っているように感じられた。特に、意識的に高めのトーンを保っているように聞こえた。


「こんな話し方を、昔の彩香はしていなかった…」


私はその違和感を心の中で反芻しながら、彼女との会話を続けていた。もしかしたら、彼女は以前の自分とは違う何かを装っているのかもしれない――そんな考えが頭をよぎった。


さらに気づいたのは、彩香の動きのぎこちなさだ。例えば、彼女が何かを拾おうとしゃがむときや、突然振り返るとき、動作がどこか慎重すぎるように見えた。まるで、誰かに見られていることを常に意識しているかのような動き方だった。


特に、桜や霞の無邪気な動きと比べると、その違いは一層際立った。彩香があまりにも自分の動作に気を使いすぎているように感じることが増えてきた。以前の彩香は、もっと自然で、リラックスした雰囲気を持っていたのに。


そして、最も気になったのは、私たちとの距離感だ。彩香は、私たちとの距離を意識しているように感じられることが増えた。特に、身体的な接触を避けようとしているようだった。例えば、以前は冗談を言い合いながら肩を軽く叩いたり、隣に座って自然と寄りかかったりすることがあった。でも今の彩香は、そういった接触を避けるように見えた。


サークル活動中、みんなで同じ作業をしている時も、彩香は自分のスペースを確保するようにして、少しだけ距離を取っていた。もちろん、明らかに不自然というわけではない。でも、私はその微妙な違和感を見逃すことはできなかった。


私は、彩香に直接何かを言うことはなかった。彼女が私に何かを打ち明けるなら、それを待つつもりだった。でも、その変化は無視できないものだった。そして、次第に私の中で一つの考えが強まっていった。


「彩香は、何かを隠している…」


それが何なのかは、まだはっきりと分からなかった。でも、彼女が以前と違うのは確実だ。私はそれを見逃さないように、彼女の言動を静かに観察し続けることにした。


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