第31話 玲奈の視点(1):感じる彩香の微妙な変化

彩香がサークルに戻ってきたのは、少し前のことだった。


彼女がサークルに来なくなった理由を聞いたことはなかったけれど、彼女が復帰したことはみんなにとって嬉しいニュースだった。私ももちろん、彼女が戻ってきたことを歓迎していた。けれど、その時からどこか、以前とは違う「何か」を感じていた。


最初は気のせいだと思った。彩香は変わらず優しく、そして控えめで、以前と同じようにサークルメンバーと接していた。けれど、私の中にはどこか違和感が残り続けていた。


彩香が突然いなくなった理由を、誰も深くは聞かなかった。みんなは気を使っていたし、私も彼女が戻ってきてくれたことが嬉しかったから、深く追及するのは避けた。でも、彼女が再びサークルに現れた時、いつもの彩香とは少し違う何かを感じた。


彼女は以前よりも慎重で、どこか自分を守るような態度を取っていた。以前はもっと自然体で、無邪気さを感じさせるような子だったはず。まるで彩香の皮を被ったエイリアンが彩香を操っているような感覚だ。そんな微妙な変化が、私の中に少しずつ疑念を抱かせていった。


サークルメンバーたちは、彩香の復帰を本当に喜んでいた。桜は特に、彩香のことが大好きだったから、再会の時は目を輝かせて話しかけていた。私も一緒に会話に加わりながら、彩香の笑顔を見ていた。


「彩香、またみんなで楽しいことしようね!」


桜がそう声をかけた時、彩香はいつものように微笑んでうなずいていた。その笑顔には、昔と変わらない温かさがあった。だけど、その瞬間も、何かが違うように感じた。言葉では説明できない、ほんの微細な違和感。それが、私の胸の中にしこりのように残り続けた。


私は他のメンバーほど感情的に動かされるタイプではない。物事を冷静に見つめ、考える性格だから、周りの変化に敏感に気づいてしまうことがある。彩香が再びサークルに参加し始めてから、私はいつも彼女のことを少し距離を置いて観察していた。彩香自身が何かを隠しているような振る舞いを見せていたからだ。


彩香が以前ほど積極的にサークル活動に参加しなくなったことも、その変化の一つだ。まるで、自分の存在を目立たせないようにしているかのように感じられた。彼女がサークルに参加すること自体が何かの「義務」になっているかのように見える瞬間があった。


彩香は私たちと話している時、いつもどこか遠慮しているように見えた。


私たちに溶け込んでいるようでいて、完全には溶け込んでいないような…。その不自然さが私の注意を引いた。彼女の言葉や仕草、何気ない表情の一つ一つが、以前の彩香とは微妙に違って見えた。


サークルにいる時、彩香が何かを警戒しているようなそぶりを見せることがあった。その目線が時折、すぐに私の方に向けられる。まるで、私が何かを感じ取っていることを察知しているかのように。


私はその度に彼女に気づかれないように視線を外したが、その違和感は一度覚えたらもう消えることはなかった。

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