第17話 温泉旅行でピンチ連発!女装男子の秘密は守れるか?
トイレで一息ついたものの、智也はまだこの危機を乗り越える方法を見つけられていなかった。温泉に入らないための時間稼ぎはできたものの、次にどう動くかが問題だった。外では、温泉に入った桜や玲奈、霞たちが楽しんでいる声が微かに聞こえてくる。
智也はトイレの個室の中で、頭を抱えながら次の一手を考えた。
「どうするんだ…ずっとここにいるわけにはいかないし、戻らないと怪しまれる…」
湯気が充満する温泉のイメージが頭の中にこびりつき、その現実がますます智也を追い詰めていた。硫黄の匂いが鼻をかすめ、温泉の独特な湿気が肌にまとわりついているような感覚が、どうしても頭から離れない。
「とにかく、どうにかしてこの状況を切り抜けないと…」
智也はトイレから出る決心をし、少しでも気づかれないように動くことを心に決めた。
脱衣所に戻ると、桜の声がかすかに聞こえてきた。
「彩香、まだ来ないのかな?もう湯加減も最高だし、早く一緒に入りたいのに!」
智也はその声に内心焦りながらも、なんとか平静を装って行動する。自分が温泉に入らずに済むためには、何かしらのアクションを起こさなければならないと感じていた。
「どうしよう…そろそろ、入らないとまずいか…?」
智也はもう一度考えた末、なんとかして湯船に入るタイミングをずらすための言い訳を頭の中で作り上げた。そして、思い切って桜たちが待つ浴場へと足を進めた。
「ごめん、ちょっと体調悪くて、少しだけ外で休んでてもいいかな…?」
そう言うと、桜は心配そうに智也を見つめた。
「え、体調悪いの? 大丈夫?無理しないで、休んでた方がいいよ。」
桜の言葉に、智也はホッと胸をなでおろした。玲奈や霞も同意してくれたので、これでなんとか温泉に入らずに済むかもしれないという希望が芽生えた。
「ありがとう、ちょっと休んでくるね…」
智也はそう言って、再び浴場の外に出た。とりあえず時間を稼ぐことには成功したが、このまま旅行中ずっと温泉を避け続けることができるかどうかはわからない。
浴場の外に出た智也は、夜のひんやりとした空気を胸いっぱいに吸い込んだ。温泉の蒸し暑さとは対照的な、涼しい風が心地よく感じられる。しかし、それでも心の中の緊張は完全には解けなかった。
「とりあえずはなんとかなったけど、この後どうしたらいいんだ…?」
智也は少し自分の選択に疑問を抱きながらも、次にどう動くべきかを考えていた。いくら外で時間を稼いでも、いつかは温泉に戻らなければならない時が来るかもしれない。それに、メンバーたちに怪しまれ続けるのも避けたい。
智也は夜風に吹かれながら、温泉の外で少しの間静かに時間を過ごした。庭には岩が並び、その隙間から湯気が立ち上っている。かすかに聞こえる温泉の湯音が、どこか幻想的な雰囲気を醸し出していた。
しばらくすると、玲奈が智也のそばにやってきた。彼女は静かに近づき、智也の隣に座った。
「彩香、体調大丈夫?なんだか様子が変だったから、心配になって。」
玲奈は智也を鋭く見つめる。その視線は、いつも冷静で観察力に優れている彼女らしいものだった。智也は内心焦りつつも、できるだけ冷静に答えた。
「うん、大丈夫。ちょっと湯気がこたえただけで… 少し休めばよくなると思う。」
玲奈はしばらく黙っていたが、その目は何かを見透かすように智也を見つめ続けていた。智也は彼女の視線に耐えるように、必死で平静を保った。
「そう…ならいいけど。でも、何かあったら無理しないで言ってね。」
玲奈はそう言い残して、再び温泉へと戻っていった。智也はその後ろ姿を見送りながら、心の中で安堵と同時に緊張感を覚えた。玲奈が自分に対して疑念を抱いているのではないかという不安が、再び胸に押し寄せてきた。
その後、智也は温泉に入ることなく、無事にその夜をやり過ごすことができた。女子たちはそれぞれ温泉を楽しんだが、智也は何とか怪しまれずに時間を稼ぎ続けた。しかし、玲奈の視線や、メンバーたちの気遣いが彼の心に重くのしかかっていた。
「これからどうするんだ… 次も温泉に行くことになるだろうし、これ以上ごまかすのは難しいかも…」
智也はその夜、布団の中でそんなことを考えながら、次に来るであろう困難に備える気持ちを強めた。
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