第16話 なんとか、時間を稼がないと…
温泉宿に到着し、少しだけ休憩を取ったメンバーたちは、ついにメインイベントである温泉に向かうことになった。智也にとって、この瞬間は最も避けたい出来事であり、どうやって乗り切るかずっと考えていた。
「さあ、そろそろ温泉行こうか!」
桜が楽しそうに声を上げ、玲奈や霞も同意する。智也はその言葉を聞いた瞬間、心臓が跳ねるのを感じた。今まで必死に平静を装っていたが、ついにその時が来てしまった。
「…まずいな…」
智也は頭の中で作戦を練るが、どうにも良いアイデアが浮かばない。妹・彩香からは「タイミングを見て避ければいい」と言われていたが、実際に女子たちと一緒に行動していると、そんな簡単なことではないと痛感する。
「本当に、どうするんだ…?」
智也の手は少し汗ばんでおり、緊張が募る。女子たちが浴衣に着替え、準備を進めているのを見て、ますます焦りが募った。
智也も仕方なく彼女らの視線を避けながら浴衣に着替える。
「浴衣、似合ってるじゃん、彩香!」
桜がニコニコと笑いながら智也の浴衣姿を褒める。彼女の明るさに、智也はぎこちなく微笑んで応じた。
「ありがとう、桜…」
「でも、本当にやばいな…」周囲に漂う温泉宿特有の香り、硫黄と湿気が混じった独特の匂いが、智也の心にさらなる重圧をかけていた。温泉の蒸気がふんわりと漂い、その香りがますますリアルに「温泉に入る」という現実を突きつけてくる。
宿の木製の廊下を歩きながら、智也は何とかしてこの状況を切り抜ける方法を考えていた。温泉への道のりは、床のきしむ音と共に静かに続いており、その音が智也の緊張感をさらに引き立てた。
窓からは、涼しい夜風が吹き込み、温泉宿の庭に植えられた松の木々が揺れている。遠くからは温泉の湯気が立ち上っており、その光景はどこか幻想的ですらあった。
「温泉って、こんなに素敵な場所だったんだな…」
智也はその風景に見入るが、同時に自分が置かれている状況を思い出し、再び現実に引き戻された。
温泉の入り口に到着すると、女子たちは当たり前のように女性用の浴場へ向かう。智也もそれに続かなければならなかったが、どうしても一歩が踏み出せない。浴場からはすでに湯気が立ち上り、温泉の湯の音がかすかに聞こえてきた。
「…なんとか、時間を稼がないと…」
智也は一瞬、どうにかして温泉に入るタイミングをずらそうと考えたが、他のメンバーたちが彼を待っているため、簡単に逃げることもできない。
「彩香、早くしないと!」
玲奈が冷静な口調で声をかける。その冷静さが逆にプレッシャーとなり、智也はどうにかその場をやり過ごすため、さらに焦り始めた。
「う、うん、今行く…」
声が上ずりそうになるのを必死で抑え、智也は少しずつ足を進めた。浴場の入り口の前で一瞬立ち止まり、温泉の湯気が漂ってくるのを感じながら、五感が一気に研ぎ澄まされる感覚を覚えた。
温泉の入り口に差し掛かったところで、智也は何とかしてこの場を切り抜ける方法を模索していた。脱衣所に入ってからどうやって誤魔化すか、心の中で次々とシナリオを組み立てる。
「とりあえず、何か理由をつけて脱衣所から出るしかない…!」
智也は必死に言い訳を考えるが、その間に女子たちは服を脱ぎ始めている。浴場からの湯気と温かい空気がほのかに感じられる中、智也の脳内はパニック寸前だった。
「どうしよう…まずい、まずい…!」
何とかして脱衣所を抜け出すタイミングを探る。と、その時、智也はあることを思いつき、メンバーたちに向かって声を上げた。
「ちょっと、先にトイレ行ってくるね!」
智也は何とか脱衣所を抜け出し、温泉の脱衣所の外にあるトイレへと逃げ込んだ。個室に入ると、急に全身から緊張が解け、壁にもたれかかった。
「危なかった…本当にやばかった…」
智也は額に汗がにじんでいるのを感じながら、大きく息をついた。とりあえず、少しの時間を稼ぐことに成功したが、これで完全に問題が解決したわけではない。
「この後、どうする…?」
智也はまだ温泉に入る問題を解決できておらず、どうやって女子たちにバレないようにするかを再び考え始めた。浴場での一瞬の油断が、命取りになるかもしれない。
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