第3話 智也の初登校(2)
智也が部屋に入ってからというものまるでじっと観察されているような感覚に襲われ、智也の緊張はピークに達する。「バレるかもしれない」という不安が心の中で膨らんでいく。
「今日は久しぶりに全員揃ったね!彩香も戻ってきてくれてよかった!」
桜の無邪気な笑顔が智也を少しでも安心させようとしているのか、彼女はあまり細かいことを気にしない様子だった。しかし、他のメンバーの視線が彼には気になって仕方がなかった。
「本当に…大丈夫だよな?」心の中で何度もそう自分に言い聞かせるが、不安は消えない。そんな智也に冷静な瞳で近づいてきたのは、
「お久しぶり、彩香。」
ダークブラウンのミディアムヘアに。サイドに軽くカールをつけており、服装もモノトーンオン落ち着いた印象だ。高身長でどこか威圧感のようなものを感じる。
玲奈はスッと近づき、じっと智也の顔を見つめた。そのクールなグレーの瞳に、一瞬息が詰まる。彼女は何か疑念を抱いているように見える。
「前に会ったときと、少し雰囲気が違うね。」
その言葉に、智也は心臓が一瞬止まりそうになった。
「え…えっと…」
どう反応すればいいのかわからず、戸惑う智也。だが玲奈はそれ以上何も言わず、ただ微笑んだ。
「ま、長い間休んでたから無理もないよね。これからまた一緒に頑張ろう。」
その言葉に少し安心したが、玲奈の鋭い観察眼が脅威になることをすでに感じていた。彼女の疑念が本物になれば、簡単に正体がバレてしまうかもしれない。
次に近づいてきたのは、静かに佇んでいた
彼女は玲奈とは対照的に、控えめで穏やかな雰囲気を持っている。
柔らかなブラウンのショートヘアで小柄で華奢な体型。暖色の可愛い系の服装もあってか、同い年のはずなのに中学生と言われれば納得してしまいそうだ。
「おかえり、彩香ちゃん。」
霞は優しい笑顔を見せながら、智也にそっと手を差し伸べた。その仕草に智也は少し安堵を感じた。霞は周囲の空気を読むのが得意で、人を傷つけないように気を配る性格のようだった。智也にとって彼女の存在は一時的な癒しとなった。
「ありがとう、霞ちゃん…久しぶりだね。」
智也はなんとか自然な声を出そうと努めた。
「さて、そろそろ活動を始めようか!」
桜の元気な声が部屋に響き、智也の緊張は少し緩んだ。桜の明るい性格のおかげで、場の空気が和らいでいくのがわかる。
「今日からまた、新しいプロジェクトに取りかかるんだよ。彩香も、もちろん参加してくれるよね?」
桜の言葉に智也はぎこちなく頷いた。
「うん、もちろん…頑張るよ。」
サークルの活動が始まると、智也は何をすべきか、何を期待されているのかがまだよく分からなかったが、今はただ自然に振る舞うしかなかった。
「ねぇ、彩香も知ってると思うけど、うちのサークル、今はランクがEEEなのよね。」
桜が軽い口調で言うが、その裏には現状への不満が垣間見えた。美術サークルは以前はもっと高い評価を受けていたが、何らかのトラブルをきっかけにランクが下がり、今では最下位のEEEランクに落ち込んでいるという。
「これからみんなで力を合わせて、ランクを上げていこうって話になってるんだ。彩香も一緒に頑張ってくれるよね?」
智也はその言葉に応えるべく、精一杯の笑顔を見せた。
「もちろん…頑張るよ。」
しかし、その笑顔の裏では、不安と緊張が渦巻いていた。妹・彩香の代わりに女子大で生きていくという現実に、彼はまだ適応できていない。これから、サークルのメンバーとして何が求められるのか、そして自分の正体がバレずに過ごせるのか。智也は内心、複雑な気持ちでいっぱいだった。
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