第36話 街中での遭遇~中学生男女と成人男女のニアミス

「春クン、暑いね。ちょっと休んでいこ」

「ええけど、今金ないよ」

「どうせ家庭教師の仕事で来月にはお金入るんでしょ」

「そりゃまあそうやけど、景ちゃん・・・」

「お金ならケーコが出すから。春クン、もう我慢できないンでしょ」

「え? じゃあぼくはそのかわりにあれを出せって?」

「そう。あれ。今日はしっかりケーコのために出して」


 夏休み中の日曜日の昼過ぎの岡山駅前の商店街。その少し外れに旅館がある。ここは昼間に男女のグループや休憩をとるビジネス客が利用している。その旅館は商店街から少し離れた場所にあるが、アーケードの中を歩く通行人がそちらに目を向けると見えないわけでもない位置にある。

 無論、先ほどのような会話が聞こえるほどの近い位置ではない。

 若い男女が腕を絡め合って歩いているのを、女子中学生のひとりが見かけた。彼女はすぐ近くに要る同級生の男子に声をかけた。

「あ、あの人らぁじゃ」 

「山根さん、あの人らって、知ってンノ?」

 外出中の中学生男女のグループの2人がひそひそと話す。

「光岡君、見なんだ? 先週児島の海水浴に来とった保母さんと大学生のオニイサンじゃ。あの人ら、もう夫婦みたいな感じ」

「麻友、やっぱりそうじゃなー」

「由真もそう思うじゃろ。いっつも一緒におったもん。というか、私らが上手いこと一緒におれる時間を増やしてあげたんよ、秘かに」

「キミらイッタイどういう神経しとるんなら。特に山根さん!」

 呆れながら訪ねるのが、同級生の光岡利男少年。去る水曜日に彼女と岡山駅の西口で出会っている。彼は、部活動の試合で近場の中学校に行く途中だった。少女ら2人はよつ葉園の入所児童だが、男子2人はそうではない。

「とりあえず、あの人らに見つからんようにな。特に大西さんと山根さん。二人に顔割れとろうが、特に保母さんに。オニイサンにしたって、昨日までしっかり顔合わせとったンじゃからな」

 もう一人の村岡誠也少年がたしなめる。幸い先方に存在はバレていないようだ。彼らは近くの店でかき氷を買って西川に沿った川辺のベンチに腰かけた。何故か4人とも緑色のシロップをかけてもらっている。新発売のメロン味とのこと。


 中学生の男女4人のグループに見つかりかけた20代前半の男女は、彼らに気付くことなく街中の旅館へと入っていった。

「景ちゃん、早いとこ風呂入ろ。まずはぼくが・・・」

「一緒に、はいろ! 今なら可愛い景子ちゃん付だぞ」

 別に異存があるわけもない。二人は案内された部屋から揃って風呂場に向った。幸いあまり客はいない。風呂にはすぐにありつけた。

「仏様の前であんなことやれんけど、ここなら大丈夫じゃ」

「でも、やりたそうにシテタでしょ~、特に、こ、い、つ!」

 こいつと言いつつ、少し若い男性の急所が握られる。やられたらやり返せとばかりに彼も彼女の同等の場所に手を向ける。

「あれから何日も景ちゃんに寄り添って、じわじわ寄られて、ようやくだよ。あ、これはちゃんと持っていくからね」

 袋に入ったゴム製の道具を2つ、彼は風呂道具のうちに加えた。

「春クンには言ってなかったけど、ほら、山根の麻友ちゃんっていたでしょ、木曜日にお風呂に入ったときに、何て言ってくれたと思う?」

「ぼくは女湯を盗聴したりしないよ。わかるわけなかろうがな」

「もう。聞いてよ~。磯貝のお兄さんと一緒にお風呂に入らんの、って!」

 2歳年下のしかしたくましさを増す青年、彼女に軽く肩を叩かれ顔を赤らめる。

「今ハイッテルじゃん。悔しかったらおまえもカレと一緒に風呂に入ってヤッテミロヨって言い返してやれば?」

「ば~か。太田センセーが年下の大学生とデキテルって職場でメチャクチャ言われて園長からも大目玉食らうし、お局保母からも小言言われて、たちまち職場にいられなくなるでしょ。お風呂でどんなことをって、もうメチャクチャじゃん」

「でも今は大丈夫じゃ。今日はケーコちゃんをメチャクチャにしたいな」

 二人で入る風呂というのは格別なのだろう。湯船の中でも痴話とも何とも言えぬ会話が続いている。そろそろ、娑婆の垢と疲れも取れた頃。二人は湯船から出た。

「もう我慢できん。ここで・・・」

「やっぱり、上がってからにシヨ」

 二人は自分の身体を拭きつつもときに相手とタオルで拭き合い、水分を落としてそれぞれ備付の浴衣を着た。すでにここに来るまで来ていた衣類は何一つ身に着けていない。来ているのは二人ともその浴衣1枚だけである。

「ほらこれ。ケーコをメチャクチャにするのはいいけど、ナシはまだ早いぞ」

 2歳上の女性が目の前の男にゴムの入った袋2つを渡す。風呂の中でとなってもいいように持参していたが、結局ここでの活躍の場はなかった。その活躍の場は彼らの休憩の間で、ということに。

 若い男女はその後、休憩の場で心行くまで生まれたままの姿で愛し合った。どちらもがときに上になり下になり、前後向きを変えて。先のゴムはすべて男女の欲望の間を取持って役目を終えた。彼女は彼に同じ商品をのおかわりを求めて自ら相手に着せた。彼女は自ら四つん這いになり相手は彼女の求めに応じて後ろに回り、さらなる交わりを楽しんだ。おかわりの商品もまた、先の2つの商品とともにその役目を完璧に果たし終えた。

 男女の肉弾闘争で生産された愛液と白濁液と流した汗を風呂場ですべてさっぱり流し切り、二人は着てきた夏物のスッキリした色の服に身を包んで旅館を出た。


 こちらは中学生4人組。金はなくても時間は有り余る夏休みの日曜日の午後。取りとめなく話に夢中である。川沿いの公園の時計は4時前。

「光岡君、あの旅館の近くに行ってみん?」

「あの保母さんとお兄さんが出てくるの、見たいのか?」

「うん。多分そろそろ出てくるンじゃないかな」

「通行人の振りをしながら、通ってみるとか」

「馬鹿、やめろって。ぼくらは別にええけど、そんなことして相手にばれたらどうするんじゃ。園長センセーに叱られようが。ついでに、君らの嫌っとる少し年増のおばさんセンセーなんか、もっと叱りよるで」

 園長やベテラン保母に叱られるというフレーズを出されると、そういう興味津々な行動に出ることははばかられる。

「でも見てみ。ここから商店街のアーケードは見えるで。上手く行けばここからでも見られるかもしれん。この川沿いの列か、中筋の商店街か。どっちかにあの二人が出てくる可能性は高い。手分けしてしばらく見よう」

 村岡誠也少年の提案に、3人は一も二もなく飛び乗った。


 何となく公園で遊んでいる振りをしながら周囲を気にするともなく気にし始めて10分もせぬ間に、件の男女は商店街の列に現れた。岡山駅方向に向かう模様。見つけたのはよつ葉園入所児童の山根麻友。彼女は二人の後姿をしっかり見届けた。

「みんな見て、ほら、あの二人!」

 確かにその姿は、先ほど旅館に入っていった若い男女であった。

「うん、見届けた。何か俺ら、どっかの探偵みたいじゃのう」

 光岡少年の感想に、村岡少年がさらに付加した。

「調査結果、やっぱりデキていました、って感じか?」

 

「5時によつ葉園に帰らにゃいけんわ」

「じゃあ、そろそろ俺らも帰ろうか」

 4人は岡山駅を通って西口に出て、歩いて30分程かけてそれぞれの家というべき場所へと歩いて戻った。

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