イチ_決断
学校へ向かい、授業を受け、そして放課後を迎える。
夕暮れの中、僕は何をしたいのかで迷っていた。
答えは決まっている、だが決まっている答えを僕は知らない。
だから、こうして悩む。
悩んで悩んで悩んんだ末に、決まった答えを出す。
僕の人生はいつもそうだ、他人と同じ視点を持っていない僕は常に孤独であり悩みと挫折の連続だった。
異常なのは理解している、異なる世界を見るということは決して肯定される事実ではない。
だから僕は僕にしか肯定できない、僕にしか肯定できないから僕だけが悩む。
同じ視点を持つ他人がいないから、同じ悩みを相談できない。
「ヤァ、来ると思っていたよ少年。君はこっち側の、人間だ」
「昨日ぶりですね、不審者」
だからやっぱり、答えは決まっていた。
この人間は同じ視点を持つ、僕と同類だ。
信用できない不審者でも、彼女は確かに僕の同類なのだ。
「今日は骸骨、下げてないんですね」
「ふん、当たり前だろ? あんな悪趣味なモノ好き好んで付けるものか。少年の魔眼を警戒しての対魔眼用の品を着けていたまで、君のそれが攻撃系じゃないから今日は外したさ」
「アレ、僕に対する対策だったんんですね……」
少し、肩の力を抜く。
この人はずっと頭蓋骨をつけるような人間じゃないし、アレを悪趣味と称する常識はある人間だ。
だからと言って、僕はこの人に心を許すことはできないが。
「さて、改めて君の名前を聞こうか?」
「……僕の名前は、来巳。
「クルミくん、バカを言っちゃいけないよ。もし君が平凡で一般人ならこの世界の全ては無価値なモノになる、君は値段をつけられないほど貴重な代物なんだよ」
「ただの一般家庭の生まれなんだけど?」
はぁ、とため息を吐く彼女。
いいや、名前で呼ぼう。
女性や不審者と言い続けるのは失礼だ、ヨルさんと普通に呼ぶことにしよう。
「一般家庭から異常者が生まれることなんてザラにある、むしろ異常者からしか異常者が生まれないなんて通りは通らない。世界を探せば異常者なんて数えきれないほど存在するよ、だけどクルミくん。君だけは例外だ、君は私が保護すべき対象になり得た」
「なんで僕はあなたなんかに保護されなきゃいけないんですか? ヨルさん。僕は今までも、これからも普通に生きていくでしょう」
「だから、保護しなくちゃいけない。君は高校生だね? 思春期を超えて反抗期に至った頃だろう、魔眼を使えているのなら君は確かに自分を特別か異常であると認識しているはずだ」
「……、まぁはい」
僕は、他とは違う。
自惚れではない、この目に映る世界が違う。
その世界を見ても、僕以外には見えない。
僕は、その世界とこの世界の狭間で生きている。
「意味のソレは、年々力を増すだろう。原石であることを考えれば最終地点などない、際限なくその力は膨張し君が気づいた時には君の目が潰れる。いや、もしかすれば……。なんでもない、こっから先はまだ教えるべきじゃないな」
「なんですか、ソレ」
「君は世界の裏側に来る気があるのか? そうなれば……」
「入ります、だから来たんです」
裏側、比喩なのかそうじゃないのか分からない。
だけど、僕と同じ視点を持っている人間はそこにしかいない。
なら、行くしかない。
簡単な話であり、やっぱり最初から決まっていた。
「クックック、オモシロい。君はやっぱり、こっち側で生きるべき人間だ」
「早く本題に入ってくださいよ、心変わりしてもいいんですよ?」
「大丈夫だ、すぐに話し出す。とりあえず、あっちのベンチに行こうか。そういえば君は炭酸は飲めるかい? 嫌ならお茶を渡そう」
「DR.PEって知ってます? あの薬みたいな味のヤツ」
一瞬、驚いた顔をして彼女は自分の好物だと言った。
変人だ、だけど避難する資格はない。
僕だってソレが好きだ、変人はソレが好きなのかもしれない。
彼女が近くの自販機でお金を払い、ソレを購入してきた。
ソレを見て、疑問が脳裏に渦巻く。
あの人の言葉に従ったんのは、間違いだったんじゃないかという疑問。
だけど不思議と後悔はない、少なくとも彼女は友好的であるからだろう。
「ほれ、というかその目を持っていても悩みはあるんだな」
「何か知っている様子ですけど、何ですか? この目ってソレほどに特別なモノなんですか?」
「……、特別さ。もう二度と人類史において蘇ることがないと思っていた魔眼、明確に観測されたのは……。そうだな、古代メソポタミアにおいての王であったギルガメッシュや魔術の王にして太祖ともいえるソロモン。あげればキリがないが、ソレでも希少であり歴史の転換点に存在していた人物たちが持っていた異能」
聞いたことのある名前だ、有名な偉人の名前。
その言葉の羅列は、可笑しくも僕の心を揺らしてくる。
この人は、やっっぱり同じ視点を持っていた。
異聞の世界を肯定するだけの、それだけの何かを知っている。
「君のソレはおそらく中位だろう、現代ではもう滅多にお目にかかれないな」
「珍しいからですか?」
「まさか、全然違うね。答えはこの世界の魔力が枯渇しかけているからだ、君は地球温暖化が人為的なモノだと思う? メタンがオゾン層を破壊し、排気ガスが地球を包み込んでるからこのホシは暑くなっていると思っているかい?」
「原因の一つじゃないんんですか? 少なくとも多くの人間はそう考えている」
だから僕もそう考えている、いや違うな。
僕はそんなことに興味を持ったことはない、ただ最初から僕の興味はこの目に映る世界だ。
地球の環境なんて、この世界の実情なんて興味がない。
この眼と、あの世界と、そして何よりその疑問を解くための仲間に僕は興味がある。
「まぁ、その通りだ。だけど、最も大きい原因がある。ソレは世界が魔力を貯蓄し始めたことだ、これこそが地球温暖化の。そして人類の発展の、直接的な原因となる」
突拍子もないことを言い出した、僕はそう思った。
だけど、その言葉には納得できる。
ああ、そうだ。
彼女は嘘を言っていない、彼女の言葉は真実に違いない。
僕は、いつの間にか少し減っていたペットボトルを強く握った。
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