第3話 カクヨム前史(社会人編)

 さて、そんな黒歴史の結晶のような作品を生み出してしまった後、私は2作目、3作目を書こうとしたのですが、すぐに行き詰まります。


 ……あ、当然ですが、スニーカー大賞にはかすりも何もしていません。

 編集部から書籍化を打診する連絡もありませんでした。

 メディアミックスで映画化しようという話もありませんでした。

 

 ちっ。


 がっかりしながらも、私は更なる傑作を生みだすべく、話を考えます。

 しかし困ったことに、面白いストーリーが思いつきません。

 そしてそのうち、そもそも面白いって何だ? というところに至ります。

 この話は面白いのか?

 もはや自分の話が、面白いのかつまらないのかわからない。


 そしてついに、私はある結論に至ります。


 うん、自分は小説家には向いていない。


 ということで、小説家になるという道は早々に放棄し、やがて全然関係ないところに就職、となったわけです。

 以来二十余年、小説は読むものであって書くものではない、という姿勢でやってきました。


 ところが、そんな私に転機が訪れます。

 それは2022年の秋のことでした。


 ある日、会社の後輩が「見てほしいものがある」と言ってきました。


 その後輩は30歳の男性。奥さんとお子さんがいて、サイドビジネスとか投資とか、そっち方面に興味がある人物だったのですが、そんな彼が持ってきたのが、なんと自作の小説だったのです。


 彼とはよくプライベートな話もしていましたが、小説や漫画が話題に上ったことはなく、そういうものに興味がない人だと思っていたので、驚きました。


 聞けばなんでも、急に小説を書くことを思い立ち、有名な小説を何冊か買って研究したのだそうです。

 その目的は、コンテストで賞を取って、一発当てることだと言います。

 まあ、この突飛さと行動力はとても彼らしいのですが。


 そして家に帰り、渡された小説を読んで私はさらに驚きます。

 その小説は、非常に熱量のこめられた純文学だったのです。


 文章は正直に言って、まだまだ未熟でした。長い文章になると、途中で主語が変わっていたり、主語が2回出てきたりといった具合です。


 しかしその内容は非常に迫力があり、彼という人間の内面を切り貼りしたような凄みに満ちていました。


 私は彼に率直に感想を伝え、内容は素晴らしいが文章が要努力。もっと書くべきだと励ましました。

 すると彼は私に、文章の添削をしてくれないか、と依頼してきたのです。


 こうして私は、彼の小説の文章の添削を引き受けます。

 結局、何作か添削をしたのですが、どの作品もとても素晴らしいものでした。


 その後、彼自身、やはり文章は自分で頑張らなければならないという考えに至ったため、私の手伝いは必要なくなりました。

 そして、いろいろあって彼は転職し、あまり連絡を取らなくなってしまいましたが、今もまだプロデビューを目指して創作を続けているそうです。


 一方、私の中ではというと、添削の作業を通して、人の作品を直すだけでなく、自分でも書いてみたい、という気持ちが育っていたのです。


 そしてそんな中、あの企画に出会います。


(つづく)

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