第2話 カクヨム前史(高校生編)

 というわけで、「カクヨム前史」。

 もちろん、カクヨムができる前という意味ではありません。私がカクヨムを始める前という意味です。


 先に書いた通り、私はカクヨムを始める前は小説を書いていませんでした。

 最後にちゃんと小説を書いたのは、高校生の時までさかのぼります。


 いちおう、子供の頃はしっかり小説家に憧れていました。

 本が好きな子供だったのですが、いろいろな本を読むうちに、自分でも何か書いてみたいという思いになるのは、ここにおられる方は皆様そうですよね?

 私の場合、書いてみたいのは、心おどる壮大な冒険物語でした。そういう小説が好きだったからです。


 しかし、愚かなガキンチョだった私は、机に向かってノートを広げ、いきなり小説を書き始めます。心おどる壮大な冒険物語のオープニングを、です。もちろん物語の全体像やプロットなど考えていません。

 そして、すぐに何を書いたらいいかわからなくなり、頓挫してしまいます。

 するとそのうち、飽きて他のことを始めてしまい、その話はそれっきり、落書きで終わってしまう。

 そんなことを繰り返す少年時代でした。


 そんな私でしたが、高校生の時、ついに角川スニーカー大賞へ応募しようと思い立ちます。

 ついに本気で小説家を志し、真剣に小説を書こうと思ったのです。


 もちろん狙うのは大賞です。

 大賞を受賞して華々しく高校生デビューするのです。あたりまえです。


 短編ひとつまともに完成させたことのない私でしたが、サブカル寄りインドア派の若者に正常な自己認識を期待してはいけません。

 ……というのはまあ暴論ですが、少なくとも私の場合、根拠のない自信に満ちあふれておりました。

 私は歴史に残る名作を生み出すべく、懸命に頭をひねります。

 世界設定、キャラ設定、ストーリー……と考えました。


 そして、やがて確信するのです。


 これはイケる、と。



 ところで、角川スニーカー大賞へ応募してみようと思い立った私でしたが、なぜスニーカー大賞だったかというと、当時の私は「ルナル・サーガ」や「フォーチュン・クエスト」といった、スニーカー文庫の小説にどっぷりとハマっていたからです。


 一方で私は、ゲームの「ドラゴンクエスト」のような、剣と魔法のファンタジーが大好きでした。(若い方はご存じないでしょうが、「ルナル・サーガ」も「フォーチュン・クエスト」もファンタジーです)


 なので、自分で書く小説も当然のように異世界冒険ファンタジーでした。


 また一方で、当時の私は衝撃的な作品に出合ってしまっておりました。

 「新世紀エヴァンゲリオン」です。

 これも若い方はピンとこないかもしれませんが、当時、エヴァンゲリオンが世間に与えた衝撃は凄まじいものでした。数々のクリエイターがその影響を受け、連載中の作品の方向性まで変えてしまった人までいたという、まさに社会現象でした。

 当時、一介のサブカル寄り高校生だった私がその影響から逃れられるはずもなく、どっぷりとその影響を受けてしまいます。


 さて。

 それらの影響をバンバンに受け、完成した小説は!


 まずは、とある冒険者ギルドを舞台に、主人公を変えながら四つの物語(短編)が順番に進みます!

 そして最終章、関係ないと思われていた四つのエピソードが、ひとつの大きな物語へとつながります!

 やがて、倒すべき本当の敵ラスボスが判明! 四つの物語の主人公たちが集結し、物語はクライマックスへ至る!

 というものでした。


 どうでしょう、なかなか面白そうでしょう!


 四つのエピソードが最終章でひとつのエピソードにつながる、これは言うまでもなく「ドラゴンクエスト4」方式です!

 そして! 長編を書いたことのない私でも書ける、会心の手法!

 名付けて、「長編が書けないなら、短編を繋げて長編にすればいいじゃない」作戦! 


 ラスボスの目的も、世界征服とかいうチャチなものではありません。

 ラスボスは人間なのですが、過去に妻を人間によって理不尽に殺されたという悲しい過去を持ちます。そのため、悪魔の力を利用して既存の社会秩序を崩壊させ、自分の理想社会を実現しようとするのです!

 そう、彼の真の目的は人類の幸福のためなのです!

 それ何て碇ゲンドウ!? (……じゃなくてゼーレか?)


 ついでに補足すると、悪魔の力を利用するあたりは「ルナル・サーガ」の影響です!

 さらに、キャラ設定や、作中での登場人物たちの軽妙なやり取りは、「フォーチュン・クエスト」の影響を受けまくっています!


 しかししかし。それだけでは終わりません。

 一生懸命考えた世界設定を、司馬遼太郎を意識した文体で事細かに説明します。

 そして、あくまでも全体の作風は格調高いものを目指します。


 そう、私が書くのは「文学」なのです! 私はこの作品を足掛かりに、文豪と呼ばれる大作家になるのです!

 では、どうするか。

 極力、漢字を多用します!

 ――なぜ!?

 なぜもなにもありません。格調高い文学は極力漢字を使うものなのです! 森鴎外なのです!

 幸い、当時私はワープロで書いていましたので、キーを押せばなんぼでも漢字に変換できます。私は、漢字にできる文字はかたっぱしから小難しい漢字に変えていくのでした……。



 ……ということで、出来上がった作品は。


 エヴァを意識したキャラたちが、軽妙なやり取りをしながら行き当たりばったりのストーリーが展開する様を、自分の考えた世界設定をこれでもかと盛り込みながら、できる限り漢字を使いまくった読みにくい文体で回りくどく叙述していく、新時代のファンタジー大作! だったのです!



 ……地獄かよ。


(つづく)

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