第88話
九条課長の電話は明日の会議の変更の件だったけれど、この場から逃げ出したかった私は、楓さんに会社に呼び出されたと嘘を吐いて、その場から急いで本堂の方へと踵を返した。
楓さんはすごく申し訳なさそうに私を見送ってくれたけれど、彼女は……何も悪くない。
元々両想いの二人の間に、割り込んで邪魔しているのは私で、そう思うと胸が苦しくて目頭が熱くなる。
諦めなくちゃいけないのは分かってる。
でも、どうしても直ぐには気持ちを切り替えられなくて、目の淵に溜まった涙が頬を伝った。
本堂の方まで抜けると、住職様と話を終えたらしい翡翠様が掃除を再開しているところだった。
一瞬、顔を上げた翡翠様と、少し遠くからだけど目が合った気がした。
でも、泣いているところなんて見られたくなくて、気付かないふりをして急いで石段の方へと走る。
多分、この距離だったから気付かれてはいないよね?と、少しだけ動揺しつつも急いで手で涙を拭った。
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