第83話

「昔は私、彼が大嫌いでした。ひー君は今でこそ穏やかなお坊さんですけど、昔は大分ヤンチャだったんですよ。」



そう言って、楓さんはクスクス笑う。


え、え?翡翠様が、ヤンチャ??

……全くどうヤンチャだったのか、想像が出来ない。


私の表情を的確に読み取ったらしい楓さんは、ふふっとまた柔らかく笑った。



「昔のひー君は、そりゃもう女の子を取っ替え引っ替え、やりたい放題!成績は優秀で、不良って訳では無かったですけど、私、ひー君が同じ女の人と歩いてるところ一度も見た事なかったです!性格は穏やかではありましたけど、ちょっと意地悪で。私、彼の二歳年下で、十六才の時婚約させられたんですけど、当時はそんな彼が大っ嫌いでした。」



昔を懐かしむように、少し遠くを見つめて彼女は笑った。



……っていうか、びっくりし過ぎて頭が追いつかない。


翡翠様が女の子を取っ替え引っ替え…!?


あの、翡翠様が!?


そりゃ、あの顔面偏差値だし、彼女くらいはいただろうなとは思ったけど…!


彼女じゃない女がわんさかいたなんて、今の翡翠様からはとてもじゃないけど、そんな様子微塵も感じられない。

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