第80話

玉瑛君や秋明さんに会って帰ろうかな、と庫裏に近付くと、丁度入口から誰か出てきたのが見えた。


その出てきた人物を見て、ギクリ、とつい固まってしまった。


あの時は、横顔と後ろ姿のシルエットしか見ていない。


けど、あれは、紛れもなく───、




───楓さんだ。




まだこちらに気付いていない彼女に、挨拶をしようかこのまま踵を返して帰ろうか悩む。


けど、彼女はきっと私の事を知らない。

だったら挨拶しても、え?って感じだよね。

うん、このまま帰ろう。


そう思い至って後ろを向いた瞬間、





「こんにちは。」





そう、突然声をかけられた。


え、え、どうしよう!!挨拶返した方がいいよね!?


軽くパニクりながらも、あ、でもそうか。と冷静な考えが頭を過る。


きっとただの参拝者だと思って、声をかけてくれただけだよね?


ならば軽く挨拶を返そうと、後ろを振り返ると、ニッコリ微笑む彼女と目が合った。

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