第63話

無言で二人を見続ける私を見て、秋明さんがふと小さく笑った。



「多分、小春ちゃんも薄々気付いておるとは思うが、あれはいつもの相談者とは違うぞ。」



秋明さんの言葉に、玉瑛君が気まずそうに俯いて、小さく溜息を吐いた。



「すみません、小春さん。まだ噂は不確かだったので、お耳にいれない方がいいかと思って黙っていたのですが…」


「噂も何も、彼女は有力檀家の娘だ。しかも、副住職が振られた“元”婚約者だからな。事実だろうよ。」



玉瑛君の尻窄みした声を、秋明さんが拾って答える。


その秋明さんの言葉に、一瞬心臓が止まるかと思った。



…元…婚約…者……?



私の脳裏に、あの葉桜の下で翡翠様と会った日の事が、鮮明に映し出される。


あの日、優しく微笑んで過去を教えてくれた翡翠様は、どこか切なげで儚げで、とても別れた彼女を想っていた事をうかがわせていた。


きっと、あの時の彼女と、目の前の彼女は、



…同一人物だ。

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