第64話

「…玉瑛君、噂って…?」



聞きたくないという想いと、目を逸らさず聞かなきゃいけないという想いとがぶつかり合って、何も考えられなくなる。


でも、逃げたってどうにもならない。


そう思ったら、口が勝手に玉瑛君に尋ねていた。



「…その、彼女は楓(かえで)さんと仰るのですが、何でも外国でのお勤めを辞めて、副住職と結婚する為に日本に戻って来られた…と。」



───…ああ、やっぱりか。


玉瑛君から想像通りの言葉が返ってきたけれど、私は想像通りの返事を返す事が、…何故か出来ない。


言葉が喉に詰まってるように、出て来てくれなくて苦しくなる。


ふと、顔を上げた翡翠様と目が合った。



ドキッ───、と心臓が飛び跳ねるのと同時に、翡翠様が直ぐに私から視線を逸らした事に、



酷く動揺する自分がいて。



胸がギュッと苦しくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る