第60話

「ですが、副住職が総本山に出向かれるのは珍しいので、もしかしたら長引くかもしれません。本来ならば、他の者が行く予定だったので…」


「ええぇ!!そんなぁぁ!!なんで翡翠様が行く事になったの!?」



私の問いかけに、玉瑛君も何故か不思議そうに小首を傾げた。



「それが、私にもさっぱり分からないんですよね。昨日急遽、副住職が向かわれると仰られたので。」



昨日、と言う単語に、ドキッと心臓が飛び跳ねる。



え、まさか…ね?


昨日のキスが何か関係ある訳じゃ、ないよね??



何となくドキドキと、嫌な予感を抱かせる心臓を押さえつつ、「そっか、ありがと。」と、玉瑛君と別れてトボトボと家路に着いた。









だけど。




あの『魔のキス』から一週間。


何故か私は、



……翡翠様に避けられまくっている気がする。



「玉瑛君!!今日は翡翠様は!?」



夕方外の掃き掃除をしていた玉瑛君を捕まえて、彼の肩をガクガクと揺らして問いただす。


仕事帰りにお寺に直行しているのに、何故かこの一週間、ことごとく翡翠様が出掛けていたりで会うことが出来ないのだ。

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