第55話

近付いた翡翠様の顔に、またドクドクと心臓が早鐘のように鳴り響くけれど───、



あの桜の花びらの時のように、またきっと取れた葉っぱを見せてくれるだけだよね。


と、自分を落ち着かせていると、私の頭上にあった翡翠様の手が、私の頬へと滑り落ちてくる。



え、




……………え?





ふわりと翡翠様の唇が、私の唇に重なった。







驚きに目を見開くと、翡翠様がゆっくりと私から顔を離して行く。



翡翠様と至近距離で目が合って、



けれど、すぐにその視線は………伏せられた。



「……ひ、すい、様…」



翡翠様は視線を伏せたまま、私の頬からそっと手を離すと、




「……すみません。魔が……差しました。」




そう申し訳なさげに言葉を漏らすと、私に背を向けて静かに離れて行ってしまった。








………魔が、



──────差した……?

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