第47話

「お時間取らせてしまって申し訳ありません。」



そう言って頭を下げる翡翠様に、更にカッと顔を赤くした幸希は、黙ってその場からすぐに立ち去ってしまった。


その様子をポカンと見ていると、翡翠様がふと微笑んで私の方を見た。




「では、また。」




そう言って九条課長や藤森を見て、それから私の頭をポンと優しくひと撫でして、中年男性の元へと行ってしまった。



あ、頭…撫でられた。


……翡翠様に。



じわじわとドキドキが高まってきて、顔が真っ赤に染まる。


それになにより、さっきの幸希への法話は、私の気分を一気にスカッとさせてくれた。


あんな悔しそうな幸希、初めて見た。


そう私が、ドキドキしながら翡翠様の後ろ姿を見ていると、藤森がボソリと呟いた。



「ヤベェ…超スカッとしたッス。言った人がお坊さんだからか、重みが違うッスよね。」



そう言って歩き出した藤森の後を、私も追うように歩き出すと、九条課長が聞こえるか聞こえないかぐらいの声でボソリと呟いた。



「…先を越されたな。」



え?

と振り返ったけれど、九条課長は何事も無かったかのように、先に行ってしまった。

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