第44話

でも、泣くなんてもっと悔しい。


そう思って顔を上げると、三人の視線が私に向いている事に驚いた。



……え、


もしかして、今のみんな聞こえてた……?



なんとも言い様のない雰囲気に、自分の顔が青ざめるのが分かった。



……本当、今日は厄日だ。



何よりも、聞かれたくない事を聞かれてしまった。


三人から目を逸らして、視線を俯かせる私に、翡翠様が何か声を掛けようとした時、後ろから騒がしい呼び声が聞こえてきた。



「翡翠先生!!待ってて下さいとあれ程言ったじゃないですか!」



そう言って、中年男性がこちらに駆けてくる。


その声を聞いた周りの女性達が、こちらを振り向いて遠巻きにザワザワとどよめく。


……翡翠様、やっぱり大人気だなぁ。


なんて、ぼんやり思いながら後ろを見ていると、すぐ側まで来ていた幸希と目が合った。


一瞬ビクリとしたけれど、視線が逸らせないでいると、私をチラリと見た翡翠様が視線の先を辿るように幸希を見た。

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