第43話

彼は多分、九条課長と同じ営業企画のセミナーに来ていたんだ。


翡翠様や九条課長達は、何か話していて気付いていないみたいで、少しホッとする。まぁこれだけの人がいる中で、彼等の声だけ拾える私が敏感すぎるだけなのだけど。


けれど、相変わらず冷や汗が止まらなくて、



ああ、お願い。

このまま普通に通り過ぎて。



そう祈りつつ、本気でここから逃げ出したいと思いながら、手に汗がじわりと滲む。


なのに、神様は意地悪で。



「流石出来る女は違うなー。良い男に囲まれてる。お前元彼としてあの図、妬けるんじゃね?」



そう言って笑う男の問いに、彼はバカにしたように笑った。



「いや、別に?っつーか、アイツさげまんだし。」



ドクンッ───


と、心臓が嫌な音を立てる。

今更彼に、何かを求めている訳ではないけれど、言いようの無いショックに襲われる。


あんなに好きだった彼に、そんな風に思われていた自分が、惨めで悔しくてじわりと目頭が熱くなる。

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