第30話

「…いつもの、貴女らしくありませんね。何かあったのですか?」



曖昧な笑顔で返事を濁していた私を、不思議そうに見つめて翡翠様が言った。



ーーああ。


どうしてこの人は、こうやって私の些細な変化を見抜いてしまうんだろう。



こうやって、私が落ち込んでいる時の翡翠様は、際限無く優しいんだ。




「い、いえ。大した事じゃないんです。…あの、翡翠様は、今までお付き合いした人っていますか?」



私の問いに、翡翠様は小さく笑って頷いた。



「ええ。まだ、僧侶として未熟な頃に。まぁ、今もまだ、未熟には変わりないのですが。」



自分で聞いておきながら、ちょっとした衝撃を受けた。


いや、うん。

これだけ極上なイケメンなんだもん。付き合った事が無い方がおかしいよね。


軽くその相手に嫉妬を抱きながら、翡翠様から視線を逸らして声のトーンを落として聞いた。



「その方とは、どうして別れたんですか?」



そう聞いた後、一瞬会話に間が空いたので、あ、聞いちゃマズかったかな?と、翡翠様をチラリと見ると優しく微笑む翡翠様と目が合った。

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