第29話

「……ひ、すい、様…?」



驚き過ぎて、言葉を繋ぎ繋ぎ口にして、隣の彼に声をかけた。


すると、こちらをゆっくり振り向いた翡翠様が、ふわりと優しく微笑んだ。



「葉桜も、中々に風情がありますね。」



ドクンドクン、と心臓が大きく波打つ中で、翡翠様に会いたいと思っていただけに、今実際会えているこの奇跡に、妙に泣きたくなった。



「…翡翠様、どうしてこんな所に…?」



困惑気味に尋ねる私に、翡翠様はふと優しく瞳を細める。



「あちらのホールで、講演会に呼ばれていたのです。今はその帰り、といったところでしょうか。」



翡翠様の視線の先に視線を向けると、文化ホールが見えた。



「え、翡翠様お一人で、ですか?」


「いえ、他にも数名一緒に来ましたが、貴女の姿が見えたので先に帰って頂きました。」



そう優しく告げる翡翠様に、胸はドキドキと高鳴り、勘違いしそうになる自分の心に強くブレーキをかける。



違う違う。

たまたま私が居たから、声をかけようと残ってくれただけ!


きっと翡翠様に、他意なんてない。

勢い余って、いつもの調子で告白してしまいそうになって、慌てて言葉を飲み込んだ。


あと三回の告白は、大事にするんだからっ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る