第28話

自分の気持ちはもう、翡翠様に向いているのは確かなのに、やっぱりまだ半年では完全には吹っ切れていないのか、幸希の前に堂々と出ていけない自分が嫌になる。



こんな時は……無性に、翡翠様に会いたくなる。



鬼係長なんて言われてるけど、本当の私は、物凄く情けない。


もう、二人が憎いとまでは思わなくなったけれど、傷は簡単には癒えてはくれなくて。



こんな私じゃ、とてもじゃないけど清廉とはかけ離れてる。


ポケットから携帯を取り出して、ユキにお昼を一緒に摂れない事をLINEで送って、足早にロビーから会社の外に出た。






オフィス街を抜けて、少し大きな公園の近くに出る。



桜も四月の上旬ともなれば、ほとんど葉桜に変わりつつあって、感慨深げに魅入ってしまった。


だからか、声をかけられている事に全く気付かなくて。




ふと隣を見て、少し離れた場所に翡翠様が立って、私と同じように桜の樹を見上げている事に驚いた。

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