第5話

一度涙が溢れ出すと中々止まらなくて、手で顔を覆ってその場に座り込んだ。


夕方だからか、10月上旬だけれど肌寒くて、その肌寒さが余計に涙を誘う。




「どうされましたか?」




一定のトーンで穏やかな、それでいてとても優しげな声が頭上から降ってきた。



……あ、この人の声、すごく好きーー。



そう思って、思わず涙に濡れた顔を上げて、声の主を見た。



「私で良ければ、お話し伺いますよ。」



そう穏やかに告げて、柔らかく笑った彼は、夕陽をバックに佇む姿が、正に仏様に見えた。



「わた、私っ、…失恋してっ…この先、どうやって生きてっ…いこうって…寂しくて…苦しくてっ…」



涙と嗚咽で中々上手く話せない私の側に、彼は静かにしゃがんで背中を優しくさすってくれた。



「あなたはまだお若い。この世の中に、どれだけの数の異性がいると思いますか?まだ、あなたはその異性の中で、一握り、いや一握りにも満たない異性としか出逢っていないのですよ?」



そう言って、彼は私の頭を優しく撫でた。

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