第6話

「運命の人というのは、皆誰しも平等にいるのだと私は思います。どこにいるのかまでは分かりません。近くにいるかもしれない、はたまた海を越えた向こうにいるのかもしれない。」



彼の穏やかな声に耳を傾けていると、自然と涙が止まっていた。



「ただ、運命は自ら切り開くもの。貴女が探すのをやめてしまっては、相手も貴女を探し出すことが出来ません。貴女が今、自分は不幸な人間なのだと悲観して毎日を生きるのか、それとも、次に出会う本当の運命の人との出会いの為の別れだったのだと前向きに生きるのか。」



ぼーっと彼を見つめる私に、彼は朗らかに微笑んで言葉を続けた。



「それだけで未来は変わると思いませんか?」



そう言われて、ハッとした。


なんだか自分が今まで悲しみに暮れて生活していた毎日が、物凄く無駄な事に思えて。



ーー私、何やってたんだろう。



途端に、なんだかムクムクとやる気が沸き起こってきた。


急にスクッと立ち上がった私を見て、また彼は朗らかに笑った。



「本当は、仏教では運命論は説きません。仏教は因縁果と申しまして、原因と結果、結果を変えるための縁、という教えがございます。先程申し上げた事は、私個人のただの意見ですので、出来ましたら御内密に。」



そう言って人差し指を口に当てた彼に、なんだか言い様のない親近感を感じて、私も自然と微笑んだ。

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