第89話

七瀬が奥に行ってしまってから、中々戻ってこない。


直ぐに戻ってくるのかと思っていたから、なんだか様子が気になった。



「今日までさ、」



私がソワソワと後ろをキョロキョロしていると、文也が真面目な顔で話を切り出した。



「正直、俺、七美はあの人に遊ばれてるんじゃないかって思ってた。」


「え?」


「ゴメン、変な言い方して。けど、今日二人でいるとこ見て、あーこの人、本当に七美の事大事にしてんだなぁと思ってさ。」


「……」



何も言えなくて黙ってしまった。

確かに、七瀬は私の事を『友達』としては大事にしてくれている。でも、私は彼女じゃない。


文也がそんな風に感じてくれていたなんて知らなかったから、罪悪感が半端ない。


「まぁ、うん。何が言いたいのか、俺も分かんないんだけど、しばらくは七美の事忘れられないと思う。けど、時間かけてでも諦めるしかなさそうだなって思った。」



顔を上げて文也の事を見ると、寂しそうに笑う文也と目が合った。

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