第90話

その顔が、なんだか妙に切なくて泣きたくなった。


文也は、本当、いい奴だった。

だから、浮気を知った時信じられなくて、何度も夢なら早く覚めればいいのにって思った。



ーあなただって、付き合ってた時は私の事を本当に大事にしてくれてたんだよ、文也ー。



自分で望んだ結末なのに、二回目の別れを経験しているようで、涙が出そうになる。



「あ、ゴメン。目にゴミが…ちょっと化粧室行ってくるね?」



私、最近こんなのばっかり。

自分に呆れながら、席を立った。



ちょうど奥の角の方にトイレのマークがあったので、急いで近付くと、話し声が聞こえてつい立ち止まってしまった。



一人は七瀬だ。

って事は、もう一人は薫さん…?


立ち聞きなんてよくないと分かっていながらも、つい聞き耳を立ててしまう。…だって、ここ、通らないとトイレ行けないしね?


自分で自分に言い訳をしつつ、ドキドキと息を潜めるもあまり言葉が聞き取れない。

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