第80話

「七瀬、わざわざ家まで来てくれたんだね?待ち合わせ場所で良かったのに」



そう言うと、何だか頬が緩んでいる私の両頬をプニっと摘んで七瀬が目を細めて睨んだ。



「それじゃ一緒に行く意味ないでしょっ!」



うん、大丈夫そうだ。

今日は七瀬に触れられても、赤くならないでいられそう。


あれから私なりに悩んだ結果、やっぱり七瀬の事は仲の良い友達としてしか見ていないんだっていう結論に至った。


七瀬とは、ずっと気の合う親友のままでいたい。離れて欲しくない。そう思ったら、この結論が一番だと思った。


それに、そう思い込んでしまえば、やっぱり今みたいに意識せず平気でいられる。


両頬をつねられてもニヤニヤしている私を不気味に思ったのか、七瀬が「なんなのこの子!」と軽く悲鳴を上げながら手を離した。


けど、思い込んでも油断は禁物だ。

今日は文也が側にいるから、七瀬は男バージョンを演じるはずだから。


私は軽く握りこぶしを作って、部屋の鍵を締めながら自分に気合を入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る