第76話

「今日は私の奢りでいいわよ。アンタ体調良くないんでしょ?早く戻りま…」



七瀬が財布を取り出した私の手をギュッと握るように掴んで進もうとした


…から、私は思わず凄い勢いで手を引っ込めてしまった。



「ご、ゴメンっ!ありがとうっ、今度は私が奢るね?い、行こっ?」




…自分でも、露骨過ぎたと思う。



七瀬が一瞬、驚いた表情で止まっていたように感じたけれど、私が早足で先を歩くから、七瀬も無言で着いてきた。


今さっきのは、絶対ヤバかった。

あんなの、七瀬じゃなくても気付く。

戻せるなら時間を巻き戻したい、とバカみたいな事を祈りながら駐車場まで歩いた。


もちろん、ずっと無言だ。気まずい空気に息苦しさを感じながら、七瀬がどう思ったのか気になった。


絶対、変だって気付いてる。いつもの私と違うって。

でも、七瀬も無言なところを見る限り、やっぱり私の態度に怒ってる…?


こんな時でも七瀬が車のドアを開けてくれるから、小さく「ありがとう」と言って車に乗り込んだ。

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