第34話

「俺…さ、」



そう言って、文也が私の手に触れそうになった気がして、慌てて席を立つフリして手を引っ込めた。



「ご、ごめん、私、ちょっと御手洗…」


「あ、うん。場所分かる?」



文也に大丈夫、と言おうとした時、美香が近付いて来て小首を傾げた。



「あ、七美御手洗?私もー。一緒行こー?」



美香の申し出に何となくホッとして頷きながら、美香に続いて部屋を出る。

部屋を出て、角を曲がった途端、美香がグルっと後ろを振り返った。



「あんた達、ただの知り合いじゃないでしょ?」



そう言って、美香が腕組みしながら訝しげに私を見てくる。



「あー、うん。実は元カレ…」


「やっぱねー。で、七美が振ったの?」



美香が御手洗があるであろう方向に歩き出しながら、苦笑いする。



「ううん、振られたのは私。向こうが浮気して。」


「は!?マジで!?てっきり、逆だと思ってたよ。だって、明らかに二階堂君七美の事しか見てないし。」



美香が、心底驚いたと言う顔をしながら、女性用トイレのドアを押した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る