雨が降り君は笑う

 魔女がいなくなった次の日から僕は魔女を探し始めた。

 気になる事件があった。

 あの殺人鬼がまた殺人しているらしかった。

 殺人と思われる現場には魔女の衣装にそっくりな黒い布片がおちていたらしい。

 警察は魔女の事を事件の関係者として捜索しているようだった。

 僕は嫌な予感がした。


 僕はふとあの男と出会った神社を思い出した。

 毎日帰りにあの神社によった。

 結局何も得るものはなかった。

「どこいったんだよ魔女!」

 僕は叫んだ。

「僕が囮になってやるからさ。一緒に殺人鬼を倒すんじゃなかったのか!お前が俺を殺してくれるんだろ」

 そんな声が神社に響く。

 反応はなかった。

 そこから晴れが続いた。

 しだいに殺人鬼の事件も聞かなくなっていた。


 それから1週間後。

 時期がおかしい台風が近づいていた。


 台風の影響で今日は客足が少なかった。

 副店長がこっそりと、仕事あがっていいよと言ってくれた。

 はやく家に帰った。

 窓の外は嵐のようだった。

 久しぶりの雨が降っていた。


 僕は馬鹿になったかのように外へ出た。

 雨が降っていた。

 久しぶりの雨だった。

 僕は神社に向かった。

 そこには魔女がいた。そしてあの男もいた。

「おや。メルヘンボーイじゃんか。」

「ぼうや。なんで台風の日に外に出るんだい?馬鹿なのかい?」

 魔女は悲しい顔でこちらを見ていた。

「わかるぜ。冒険したいよな。ボーイ。」

 殺人鬼は笑う。

「こんな雨の日はさ。雨はいいよな。なんていうか無敵になれる。文字通り。雨粒は弾丸にもナイフにも、道にもなる。」

 殺人鬼が近づいてくる。

「なのにこの魔女雨を殺し始めたんだ。最低だろ?」

「雨を殺す?」

「おかげで俺は無敵になれなかった。仕方がないから俺より弱い女を殺すしかなかった。そしたら邪魔してきてさ。」

「なんでお前は人を殺すんだよ。」

 僕は殺人鬼に向かって問いかける。

「あ?お前はわかってるんだろ。お前の逆だよ。お前は誰かに殺されたがっている。魅力的な魔女にさ。俺は、誰かを殺したがっている。お前みたいに死にたがりのやつをさ。」

 殺人鬼が、宙に舞う。

 足元には雨粒があった。

「魔法使いってのも疲れるのさ。わかるだろう。」

 ザシュゥと雨粒が僕の身体をかすめる。

「自由でいたい。邪魔するなぁあああああ」

 急に男が大声をだして魔女の方を向く。

 僕は魔女が僕に向かってきた雨粒の狂気を逸らしてくれたことに気がついた。

「知られたくはなかったな。この世界の魔法使いってやつはこんなやつだってことをさ。」

 魔女が口を開く。

「魔法は、もっと人々が生きる希望となる存在なんだ。こんな魔法じゃない。」

 魔法使いは怒っていた。

「黙れ。」

 無数の雨が鎖のように魔女を拘束する。

「もう魔法の時代は終わったのさ。それもこれも明日を生きようと思う人が減った事が悪い。だから殺すのさ。明日を生きようとする想像力魔力がないやつを!」

 

 男はナイフを取り出した。

 そして雨粒の鎖で拘束された魔女身体にナイフを刺す。

 その瞬間、僕は魔女を庇っていた。

「面白いね。魔法使いがこんなでも魔女さんの魅力は変わらないよ。」

 魔女は驚いていた。もしかしたら笑っていたかもしれない。

 そして僕は笑った。

「そのナイフで殺したいんだろ。わかるよ。」

 僕は男の手を掴む。

「僕もさ、人を殺したいと思ったことがある。僕の店の上司を。」

 男は逃げようとする。しかし僕は掴んだ手を離さなかった。

「厨房で朝のスタンバイでさ。作業が終わらなくて理不尽に怒鳴られた。お前はなんの為に仕事をしているんだって。他にも色々怒られた。仕事を教えてくださいって自分から教えてもらえるような態度をとらなきゃとか言われたさ。だから僕は包丁を手にとって……」

 男の顔を見る。表情はわからなかった。

「でも殺せなかった。料理は好きだったから。包丁で人を殺したら僕はもう料理を仕事にできない。君も魔法で人を殺したら魔法使いにはなれないんだろ。」

「違う。俺は……」

 魔法使いが僕の身体からナイフを抜く。

 胸から血があふれ出る

「良かったじゃないか。僕はお前に殺される。お前も人を殺せる。魔法使いじゃなく殺人鬼として」

「違う。」

 魔法使いが何かを唱える。気がつくと僕の傷は雨粒で塞がれていた。

 どうやら僕に反論したいらしい。

 僕を延命するために魔法使いの周りにあった雨粒が僕の傷口を塞ぐように集まり続けていた。

「魔女今だ!」

 そう叫ぶ。

 そうゆうと魔女は殺人鬼の体に触れる。

「ありがとう。ナイフが怖かったの。それと雨粒もね。」

 魔女も臆病な女の人だったんだろう。

 だから僕を囮にしたかったのだろう。

「魔法使い。あなたは魔法を使う資格はない。」

「やめろ。やめてくれ!」

魔法終幕ふういん

 優しい声が響く。

 そして殺人鬼は倒れた。

 もう雨粒は魔法が解けて僕の傷口をふさぐことはなかった。

 その日台風は急に消え空は晴れた。


 けれども僕の身体には雨が降っていた。

 死んだ体で雨粒を感じた。

 目を開けると魔女が泣いていた。

「ありがとう。ぼうや。」

 お礼を魔女が口にする。

「あなたの望み通りあたしがあなたを殺してあげるから、あたしの望みを叶えてちょうだい。」

 そういうと魔女は、呪文を唱え始める。

「……のぞ……み?」

 そう言いながら僕は魔女にキスをされて死んだ。

 やさしい殺され方だった。悩殺だ。 

 

 

 

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