悲しい時に雨は降らない
翌日
――10時41分――
僕は出勤していた。
「おはようございます。」
こうして昨日の出来事が忘れられないなかで、今日も労働がはじまる。
今日は11時からの出勤だった。
制服に着替えて、11時まで食材の準備をする。
今日はホールで接客の仕事の日だった。
11時になり店がオープンする。
「いらっしゃいま!」
店長の声が響く。
「「いらっしゃいませ〜」」
パートの人と僕の声が続けて響く。
お客様が次々と席に案内される。
こちらにも一人お客様が案内された。
僕の担当エリアだ。
僕はお冷、箸などを持っていく。
「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます。」
お客様の目を見る。
「「え?」」
お互いに困惑していた。
お客様は魔女だったのだ
「おい。お前は昨日の……」
「ご注文お決まりの頃お願いします。」
そう言って僕は、魔女の席から逃げた。
「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます。ご注文お決まりの頃にお願いします。」
「おまたせしました。こちら焼きそばになります。」
一通りの作業をしながら僕は覚悟を決めた。
「お客様ご注文お決まりですか?」
「いやお前ここの店員だったのか。」
「失礼しました。またお決まりの頃伺います。」
「お前の望み叶えてもいいぞ。」
「え?」
魔女は、僕が去ろうとする前にそう言い出した。
「とりあえずご注文お願いします。」
「焼きそば一つで。」
「かしこまりました。」
「今日の夜、あの神社に来い。待っている。」
魔女は、仕事モードの僕では話を聞いてくれないということがわかりそうつぶやいて、お冷を飲み始めた。
「ありがとうございました!」
その言葉が聞こえると僕はお客様の机を片付けに向かった。
とりあえず今は仕事で忙しい。考える時間はなかった。
――20時01分――
「お先に失礼します。」
今日は11時からなので昨日より遅い時間だった。
僕は急いで神社に向かった。
こんな時に車かバイクが有れば多少は楽なんだろうな。そう思った。
「遅い!」
魔女は怒っていた。
「今日は仕事が終わるの遅くて。」
勝手に呼び出されて怒られることは初めてだった。
「そうなの。大変なのねこの世界の人って。」
「大変なのは僕みたいな鈍臭い人だけさ。」
そんな話を僕はした。
それから僕は、魔女と友達になった。
「今日も大変ね。」
魔女はたまに僕の職場に来ていた。
僕が接客の日は僕に話しかけてきた。
「ありがとうございます。」
僕はそう答えた。
そして仕事が休みの日に魔女の家に呼び出された。
その日は雨が降っていた。
「雨の日は魔力が強くなるの。」
魔女はスリットが魅力的な黒い衣装になっていた。
「殺人鬼を捕まえたいの。」
魔女が語る。
「君を刺したあの男。この場所で殺人を繰り返してるの。それにねあいつは魔法使いなんだ。」
「魔法使い?」
「そう。雨の日だけあいつは魔法が使えるの。」
「雨の日だけ……」
「そう。私は別世界から来たんだけど。君を助けた時に魔法の痕跡に気がついてね。同じ魔法を使う身としては許せなくてね。」
「だからさ。囮になってよ。そしたら君の望み通り殺してあげるから。」
魔女はそう言いながら笑っていた。
「なんで笑うんだよ。しょうがないだろ。あの時は疲れてどうかしてたんだから。」
「ふひひ。命って大切なんだぞ〜。ぼっちゃん。」
なんだかんだ僕は魔女に救われていた。
「いいよ。僕が囮になる。」
「へ?」
「どうせ魔女もこの世界とやらでは、助けてくれる友達もいないみたいだしね。」
「いいねえ。怖い物知らずだねぼうや。」
言い合いながら僕らは笑った。
そんなこんなで僕は、僕の姿を魔女が見守る形で人気のない場所に寄り道しながら帰るようになった。
そんな帰り道がなんか好きだった。
1ヶ月くらいたったある日。
今日も帰り道魔女がいつも待っているコンビニに向かうと魔女がいなかった。
なんか嫌な予感がした。
少しの間待っていたが来る素振りがない。
僕は魔女の家に向かった。
魔女はいなかった。
その日から魔女は藤宮市から消えた。
少なくとも僕が探せる範囲に魔女はいなかった。
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