雨が止むと笑いは消える

 「魔女はいないか。」

 

 雨が降っていた。

 帰り道はあいかわらず暗かった。

 僕は疲れていたのかもしれない。

 笑っていた。

 なんか惨めだった。


 自動車の免許がないことも、仕事に馴染めないことも。他の嫌なことも。

 雨の日は自分がレストランの厨房で温められた身体を冷やしてくれて心地が良かった。


 今日はいい日だ。そう思った。

 だからこそ明日が来るのが嫌だった。

 僕は、ふと寄り道をする事にした。

 寄り道といってもただの現実逃避である。

 僕はスマホのSNSで魔女の目撃情報があった神社に向かっていた。

 家の近くの神社だったので寄り道にはちょうど良かった。

 もしかしたら魔女に会えるかもしれない。

 僕は魔女に殺されたかった。

 なんか生きてる事に意味を感じなかった。


 なんでも最近、殺人鬼がいるらしい。

 不審な死体が数件発見されている。

 僕の職場のレストランの隣の店の店員も被害あったらしい。

 隣の店はそれから、休みになっていた。

 雨の日にあらわれる魔女、不審な死体。

 もしかしたら僕みたいに疲れた人を救っているのかもしれない。

 それにスマホで見た魔女の姿とされる情報はとても魅力的だった。

 そんな魔女に殺されるなら死んでもいい。


ジュッ、ザシュゥ

 音がした。

「え?」

 僕の後ろに男がいた。

「ヘヘ。夜道に一人で神社?だめだよ~最近のニュース見てないの?」

 男が喋る。

 僕は倒れていた。

 何が起きたのかわからない。

 未知の感覚だった。

 その後痛みを感じていた。

「雨の日に人気のない神社の方向を歩いてるなんて殺してくれって言われてるみたいでさついてきちゃった。」

 男は笑っていた。

 不快だった。

「嬉しいでしょ。死ねるんだよこれから。」

「嫌だ。死にたくない。」

 僕はそう口に出していた。

「は?」

 驚いた男の顔。

「お前には殺されたくない。」

 そう言うと男は笑っていた。

 男は胸元からナイフを取り出すと僕の身体を蹴った。

「ぐっ……」

 僕は呻く。僕のポケットからスマホが転がる。

 男は僕のスマホを見る。

 また笑った。

「なるほど。お前魔女に殺されたかったんだ。メルヘンボーイだ。」

 僕が見ていたSNSのまとめがスマホ画面に映っていたんだろう。

 僕は恥ずかしかった。

 どうせ死ぬなら魔女に殺されたいという僕の異常性を目の前の男が理解できていた事が嫌だった。

「残念。魔女じゃなくて俺は殺人鬼でーす。」

 そういって僕の身体に男が刃物を刺す。

 僕の身体は悲鳴を上げた。


 更に男がナイフを掲げる。

 その瞬間風が吹き上げる。

「は?」

 男は混乱していた。

 雨が止んだ。

 この神社だけ雨が消えたといってもいい。


「去りなさい。」

 声がした。

 男の後ろに魔女がいた。

 背が高く、黒いドレスのような格好。

 スカートには片側にスリットが入っており、魅力的な足が見える。

「すごい……素敵だ。」

口から漏れていた。

 魔女は僕の発言に驚いていたようだった。

 そして男を吹き飛ばす。


 原理は分からなかったが、魔女が吹き飛ばしたとしか言えなかった。


 こうして僕の濃い1日は終わった。

 ああいい人生だった。


「治れ。」

 そう魔女がつぶやく。

 すると僕の身体が熱くなる。

「え?」

 僕の身体から痛みは消えていた。

 僕は困惑した。

「まってよ。僕を殺してくれ。」

 意味不明な言葉がでた。

「働きたくない。生きるってつかれるんだよ。」

 助けてもらってなんて図々しい発言だろう。

 それを聞いた魔女は、

「私すぐ死のうとする男嫌いなの。家へおかえり。」

 そう言った。

 その後のことは覚えてない。

 気がついたら僕は家へ帰っていた。

 僕はどうしてしまったんだろう。


 

 

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