第97話 平和の訪れ①

1947年(昭和22年)12月


各国の戦争犯罪人に対する裁判が始まっているが、最初に開始されたスターリンに対する裁判を通じ、スターリンとその意を受けたコミンテルンの陰謀が白日の下に晒されつつあって、世界中が知るところとなった。

幸いなことに日本側でスターリンとコミンテルンの仕掛けた陰謀に引っかかった人物はいなかったが、アメリカではそれこそ「あいつもか?」「あの人が?」という人物が実名を挙げられ、アメリカにおける裁判に影響を与えている。

そのスターリンだが、ロシア皇帝一家を抹殺出来なかったことを未だに悔やんでいるらしく、うわ言のように呪詛の言葉を吐いているらしい。


それが共産党の最初の失敗だったのは事実だが、そんなことにこだわり続けるなんて惨めだ。


やっぱりF・ルーズベルトは共産主義に洗脳されていたらしく、既に公表されていた「ルーズベルト・ドクトリン」には密約が存在していて、日英を独ソとの戦争状態へ追い込んだうえで、アメリカが日英の背後を襲うという内容だったと暴露された。

もともと日本人に対する蔑視、差別感情があったせいで易々とスターリンの陰謀に落ちてしまったらしい。

確か「日本人の脳は白人より小さい」と信じていたらしいから、かなり重症で付ける薬がない。


だがこの陰謀が実現していたら、我々同盟国に現在のような勝利がもたらされたかは疑問だ。

最終的な勝利は得られたとしても、最低でも長期戦に引き摺り込まれて、双方の死傷者数が跳ね上がったことだろう。


そういった意味でも平和に対する罪は重大だ。


そんな陰謀が知れ渡ったせいで、同盟国側では当然ながら、枢軸国側でもルーズベルトに対する嘲笑が拡がっているし、アメリカ合衆国ではあちこちで自国政府に対する暴動が起きている。

現地からの報告では街で星条旗を見る機会が激減したらしく、合衆国国民のプライドはズタズタなのだろう。


日本側がこの陰謀よりも問題にしたのが、ルーズベルト政権時における謂れなき日系移民に対する差別的扱いの真相解明で、間違いなく黒人や先住民への差別の延長線上にある行動だと断じられた。

アメリカ人の意識を根本から改革しなくてはいけない。


ドイツにおいても戦争犯罪人の裁判が始まっており、早速ナチスと親衛隊、ゲシュタポの犯罪行為が弾劾されている。


ただし、俺としては一連の戦争犯罪人に対する裁判は史実の極東軍事裁判(東京裁判)みたいな「勝者による敗者への一方的な審判」であってはならないとの立場を明確にしている。

あんなインチキ裁判なんて恥知らずもいいところで、野蛮な白人の本性が露わになっている。

そもそも事後法の遡及的適用であったことは重大な問題だ。

これが可能なら「大航海時代」以降の白人による残虐行為も、21世紀に新法を制定したのちに裁いても良い。となってしまう。

法治国家としてあり得ない対応だった。


更に裁く側はすべて戦勝国が任命した人物で、戦勝国側の行為はすべて不問だったことも大問題だ。

仮に勝敗が逆だったら?あるいは勝敗に関係無く裁かれていたら?

ルーズベルトもトルーマンも間違いなく死刑だし、無差別爆撃を遂行したカーチス・ルメイも死刑だ。


ついでに言っておくが日本人はA級戦犯>B級戦犯>C級戦犯だと勘違いしている人が大半で、何か物事がうまくいかなかった場合「アイツがA級戦犯だ」みたいな表現をしがちだが、実はA級もB級もC級も罪の重さは変わらない。

単なる記号で、例えるなら3年A組、3年B組みたいなものだ。

だからA級戦犯=B級戦犯=C級戦犯が正解で、区分け内容は次の通りだ。


A級戦犯=「平和に対する罪」で有罪とされた戦犯

B級戦犯=「戦争犯罪」で有罪とされた戦犯

C級戦犯=「人道に対する罪」で有罪とされた戦犯


という意味で、史実で言えば戦争を望み、日本を挑発し続けたルーズベルトはA級で、原爆投下を指示したトルーマンはB級、軍上層部の意を受けて無差別爆撃を実行・指示したルメイはC級が相応しかっただろう。

全て最高刑は死刑となる。


この世界でもルーズベルトのA級戦犯は確定だし、スターリンやナチスの連中も戦犯として裁かれるだろう。


日本としては、勝者側であっても人道的に問題となる行為をした場合は戦争犯罪人として裁くべきとのスタンスで、具体的にはフランス解放時におけるフランス市民によるドイツ兵への虐待行為だ。

そんな裁判の被告とさせたくなかったからこそ、ポーランド解放時にユダヤ人とドイツ人を引き離したのだし、バルト三国やウクライナでも同様の処置をした。

仮に日本軍においてでもそういった虐待行為に加担した者がいれば、遠慮なく訴追するつもりだったが、幸いなことに軍規は保たれていたみたいで安心した。


それはそうとして第二次世界大戦も終了したので第四回、そして最後となる世界の力比べをしよう。

現時点における世界の力関係を列記して比較してみたい。


遂に日本は世界一の超大国になった。


日本は関東大震災をきっかけとする経済不況の荒波を乗り越え、二度にわたる人道目的の派兵と輸送船団の派遣を通じて世界からの信頼と尊敬を集め、独ソ、次いでアメリカ合衆国も降して、落日の英仏を尻目に我が世の春を迎えようとしている。

経済的にも周辺国のロシア、東パレスチナ、台湾、ハワイとの結びつきが強く、特上の顧客に恵まれている。


世界が認める最強国として躍り出た日本を100とすると、俺の独断と偏見による全体の力関係は下記の通りだ。


・日本  →100 世界最強の陸海軍と強固な同盟国、堅実な経済基盤と世界最長の歴史を有する


・イギリス→ 70 二度の世界大戦で疲弊 植民地を維持する力はもう無く、大英帝国は終焉


・ロシア → 40  不倶戴天の敵であるソ連を撃破、民主的体制を構築中


・フランス→ 30 二度の大戦で疲弊 日本にまだ借金が残っている


・アメリカ連合国→25 合衆国に代わり北米大陸を代表する国家へ成長 


・アメリカ合衆国→20 日本の空爆で基本的工業力を喪失、海軍も壊滅 卑怯な戦犯国家へと没落し、日本の管理下にある


・ドイツ → 15 潜在能力は高いが国土は灰燼に帰し、国民の自信は喪失 日本に借金がある


・イタリア→ 10 味方にすると恐ろしい国


以上、しつこいが個人の感想であって外交力、金融力などを総合すればイギリスの数値はもっと大きくなる可能性はあるが、大英帝国はもう終わりだからこの数値とした。


国際的な力関係は以上のような感じとなる。

日本がドイツへ第一次世界大戦後にドイツ復興を目的とする債券の形で貸し付け、一方的にデフォルトを宣言されていたカネについては、デフォルトを認めず追徴の利息をペナルティとして追加したうえで全額払うか、ドイツ本国の一部を日本に割譲するかをドイツに選ばせた結果、北海のヘルゴラント島を割譲するから借金を帳消しにして欲しいと懇願されてしまった。


そんな飛び地なんて使い道が無いのだが…と一時は思ったが、受け入れることにした。

領海内とEEZ内で漁業は出来るし、ついでに言えばこの場所にドイツに対する監視機関を設置してもいいと考えたからだ。

あまり知られていない事項だろうが、史実のNATOも設立の目的は三つあって、最大の目的はソ連・ロシアに対抗する為だが、アメリカをヨーロッパに関与させてヨーロッパ側の負担を減らす事、ドイツを抑えつけて二度と暴走させない事、という隠れた目的も存在していたから、この世界でもドイツに対する監視は必要だ。


それはともかく日本ほど同盟国に恵まれ、尊敬を集める国家はないだろう。

決して力で従わせるのではなく、尊敬と信頼で手を結ぶという俺が理想とする国際情勢だ。


だが、まだ日本として大事な問題が残っている。

世界各地の植民地の開放と中国大陸、満州、朝鮮半島問題だ。

イギリスの立場としては、もはやアジア方面で植民地を維持するだけの力は残っておらず「名誉ある撤退」を選択する以外なかった。

そして撤退にあたってはマウントバッテン駐日全権大使の尽力もあったと思うが、比較的綺麗に諸問題を片付けてくれたと言えるだろう。


まずは満州だが、数年前に張作霖と張学良親子は共に列車事故でこの世を去っていた。

これがイギリスの策謀かどうかはよく知らないし、知りたくもないが、張親子の後に勢力を拡げたのが、史実では中国共産党の幹部まで出世したものの、権力争いに敗れて自殺した高崗こうこうという人物だった。

ただし、この世界で中国共産党という存在はもう完全に忘れられており、彼自身も共産党からは脱退していた。

最近だとイギリスと協調しつつ勢力拡大を果たしているように見えるから、イギリスとしてはこの人物に後事を託して、このままフェードアウト予定らしい。

高崗の立場としては満洲の東や北は大国ロシアに接しているし、南には超大国日本がいるから、とても安穏とした気持ちで国家運営は出来ないだろう。

俺としてはそんな弱みに付け込んで、民主的な国家体制とするよう要請(指導)中だ。


そして内戦続きで混乱したままの中国大陸だが、こちらはイギリスも持て余していたので、俺が知恵を付けて対処させた。


それは「台湾による統一」という方法だ。


21世紀の歴史を知る俺としてはキツイ皮肉に感じるが、案外良い案だと思う。

既に独立を果たして相応の時間が経過し、民主的な政府も定着しているから大陸に進出しても問題ないと判断した。

特に中国大陸は民主的な方法で統治された歴史を持たないから、中国人自身に委ねてしまうと争いが果てしなく続いただろうし、そういう意味でもこれは良い解決策だろう。

といっても一気に全土を統治するのは無理があるから、南部から時間をかけて徐々に支配地を拡大させていくみたいで、治安維持を含めて日本にも協力要請が来たので応じることにした。


最後に朝鮮半島については未だに李氏王朝は健在だったから、王家に統治を戻してこちらもフェードアウトするらしい。

日露戦争後にイギリスがこの地に進出して41年となるが、植民地として得るものが最後まで無く、朝鮮民族の恨みと反抗を常に受け続けての苦難の統治だっだが、遂にギブアップとなった。

ただし、王家に実権が戻ったからといって、いきなり発展し始めるはずも無く、むしろ前近代的な支配が復活する事で後進国として取り残されるというパターンが最も可能性の高いシナリオだろう。


俺の立場としては朱子学の毒に冒された挙句に、天皇陛下のことを「日王」と呼ばないのであれば放置するつもりで、俺が転生してきた1892年の状況に戻るイメージだが、当時と違って周囲には日本にちょっかいを出せる国など存在しないし、日本との実力差は子供でも瞬時に理解できるレベルまで拡がっているから、彼らが反日政策を選択するだけの胆力と覚悟があるとは思えない。


続いては東南アジアに多く存在していた植民地だが、英仏両国は共に撤退を決めた。

これは日本の圧力と干渉があったことも決め手となったが、いきなり撤退して力の空白が生まれるという事態が最も危険で、当面は日本が台湾に対して行ったように民主的体制構築を英仏の責任において実行し、徐々にフェードアウトしていく方針だ。

これによってビルマや仏印、蘭印といった東南アジア諸国は民主的、平和的手段によって独立へと至ることが可能となるだろうし、日本としても援助は惜しまないつもりだ。


最後に残った最大の問題がインドだ。


この地はイギリスの統治方法がマズかったために、21世紀でも多くの問題を抱えたままだった。

まずはヒンズー教とイスラム教の対立だ。

史実ではインドはヒンズー教を中心にインド亜大陸の中央部を占有し、イスラム教のパキスタンはその西側を領有したが、北部に位置するカシミール地方の領有を巡って対立したままだった。

しかもパキスタンには当初「東パキスタン」という地域が存在していて、完全に飛び地だった。

どこにあったかといえばインドの東側、21世紀ではバングラデシュとして独立した国だ。

史実では「ベンガル大飢饉」で300万人の死者を出した場所でもある。

つまり、「インド」は3分割されたに等しい状態で、平和に対する重大な脅威となっていた。


しかもインド、パキスタン双方とも核保有国だった。


とてもではないが俺としては史実のような、宗教によって分断した状態での独立は認められない。

更に言えばインドとパキスタンの分裂は、両国民に深い傷跡を残した。

お互いの居住地を宗教で強引に分けてしまったために、双方に取り残された約1200万人が難民となり、移動中に約50万~100万人が殺されたし、大勢の女性が誘拐されてしまったという史実があるからだ。


しかし、この分断を招いたのは繰り返すがイギリスが対立を煽ったせいだ。

植民地内部で対立させ、イギリスへ反抗するエネルギーを逸らしたほうが植民地経営にとって有利だったからだ。


更にはカースト制という大問題を抱えていた。

カースト制とはバラモン、クシャトリア、ヴァイシャ、シュードラという4段階の階層を指す。

大まかにはバラモンは聖職者、クシャトリアは政治権力と武力を持つ王族や武士、ヴァイシャは商人で、シュードラは労働者だと規定された。

更にはダリットと呼ばれる不可触民が存在しているが、この身分はカースト制には属さないとされた。


これらの階級の成立はバラモン教が発端だが、ヴァルナとジャーティという概念があり、ヴァルナとは肌の色を意味するサンスクリット語で、人種差別的意味合いを含み、白い肌がより高貴とされる。

これはインドに侵入して支配したアーリア人が起源だからだ。

このヴァルナは16世紀にポルトガル人が「カースト制度」と名前をつけた事で世界に知られるようになったが、これはポルトガル語で血統や人種を指す。


一方でジャーティとは4つの階層をもっと細分化したもので「序列と家門」を表す。

だからインドではいわゆる名字を聞けばどのジャーティに属するかすぐに判るそうだ。


その後バラモン教は複数の宗教を取り入れてヒンズー教へと発展し、カースト制度と共にインドに定着した。

詳しくは触れないが、この宗教の教義も他の身分同士の婚姻をタブー視する為、身分を固定化する要因の一つとされる。

ただ、イスラム教の広まりもあってカースト制度はほぼ消滅しかけた時期もあったのだが、イギリスが効率的な統治を目的として復活させてしまった。

この下層階級の知識層の中から現れたのがマハトマ・ガンジーで、すべてのインド人はカースト、性別、宗教、言語、人種によって差別されないことを理想とした国家の独立を目指した。


要約して述べたつもりだが、とんでもなく複雑なものだということ、そしてイギリスがそれを更に複雑なものへとしてしまったことは理解できるだろう。


全てはイギリスが悪いのだ。


そして先ごろ、史実通りに最後のインド総督としてマウントバッテンの赴任が決まった。

彼にとっては駐日特命全権大使よりも権限があるから栄転だろうが、俺としては安易な宗教による分断はしないよう、きつく言い含めておいた。

しかも来月は史実においてガンジーが暗殺されてしまうタイミングだ。

なんとしてもガンジーを保護し、彼の言葉に耳を傾け、イギリスの過去の過ちを清算せよと厳命しておいた。


21世紀においてはガンジーを暗殺した人物を称える風潮があるみたいだが、危険な兆候で、人口の増大と経済力の発展を背景として自信過剰になるとヒンズー至上主義が台頭し、パキスタンとの全面戦争へ発展するリスクをはらんでいる。


更には双方が核兵器を持っている事実は忘れてはいけない。


マウントバッテンにとっては俺に言われた内容は重い話だろうが、インド総督としてマハラジャのように豪奢で怠惰な生活などする暇もないくらい彼を追い込んだほうが浮気もしないだろうし、インドの未来にとっても良いことなのだから頑張るべきだ。

その辺りはマリアが手綱を握っているから大丈夫とは思うが。

独立を希望するインド側としても大国ロシア皇帝の姉君が相手だからやりにくかろうし無理な要求も出せないだろう。


さて、外国ばかりに目を向けずに日本の改革、いよいよ大日本帝国憲法を見直し、俺の歴史改変の仕上げとしよう。

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