第96話 恒久平和への道

1946年(昭和21年)9月


アメリカとの戦争は終わり、同時に第二次世界大戦も終了したが、俺にとっての本当の意味での戦いはこれからだ。


何故なら日本の周辺諸国はまだ落ち着いていないし、植民地問題も解決していないからだ。

ヨーロッパにおける人々の憎しみの連鎖を断ち切らないと平和は訪れないし、更には原爆をどう扱うのかという問題も残ったままだ。


まずは戦争犯罪人裁判から始めるが、結審するまでにはそれなりの時間がかかるだろう。

だが史実の東京裁判みたいな勝者による一方的なでっち上げでは無く、公正な裁判を行わなくてはならない。

アメリカ合衆国における戦争犯罪人の対象者は当然トルーマン大統領だ。

嫌疑はA級戦犯と言われる「平和に対する罪」で被告人となった。

また、ストレスから解放されたせいかどうかは知らないが、元大統領のF・ルーズベルトはまだ生きていたから戦犯候補だし、ハリー・デクスター・ホワイトやヘンリー・モーゲンソーといった連中が行った日本に対する陰謀も白状させねばならない。

ただし、当人たちには告げていないから知らないだろうが、スターリンは既にルーズベルト時代のアメリカ合衆国政府への工作活動を自白済みだから彼らの関与は明白だが。


国際連盟の強化も図らなくてはいけない。

現在の国際連盟が戦争を防ぐことが出来なかったのは事実だが、現実にはドイツ・ソ連・合衆国という非加盟国が起こした戦争だったから、全ての国家を国際連盟に加入させて管理せねばならないとの共通認識が醸成されつつある。

常任理事国も今までは日英露仏の四カ国だったが、ここにアメリカ連合国を加えて五カ国とする案が出ていて、俺もこれに賛成しておいた。


事実上の五大国だ。


「大国」の定義はその国の意向を聞き入れないと、国際社会において何事も決めることが出来ないという存在であり、逆に言えば世界の平和に対する責任が重大なものになる。


だから平和に対する実効性の担保としての国連軍創設も重要な課題だ。


もし国連軍が存在して機能していたら、第二次世界大戦は防ぐことができたと判定されたので、以前は反対していた英仏は共に創設に乗り気となってきており、常任理事国の五大国がそれぞれ1万人を出し合って常備軍として各大陸に分散駐留させる案が出ている。

これを中核にして有事には一気に増員を行って介入し、紛争を鎮静化させる案だ。


「いかなる戦争にも反対だ」、「ダメなものはダメ」と言えば戦争は起こらない?そんなことは無く、それどころかヒトラーを増長させてしまった。

早期に介入して芽を摘んでおけば大戦にはならなかったのだ。


それと第二次世界大戦は「国家総力戦」だったと言われるようになっている。

この言葉は一般的には第一次世界大戦が史上初の国家総力戦であったとみなされている。

ただし日露戦争が歴史上初の総力戦と位置付けられることもある。

用語としての起源は1935年にドイツの元参謀本部次長エーリッヒ・ルーデンドルフが「国家総力戦」という書物を著して概念を明示した。

さらに、1943年2月にドイツ宣伝相のヨーゼフ・ゲッベルスが行った「諸君は総力戦を望むか」という総力戦布告演説がラジオ・ニュース映画を通して広まり、用語として定着するに至ったとされる。

言うなれば概念としてはドイツが発祥だったわけで、事実として第一次、第二次両大戦でドイツは総力戦の結果、焦土となった。


この総力戦とは国家が国力のすべて、すなわち軍事力のみならず経済力や技術力、科学力、情報力、政治力、思想面の力を戦時の体制で運用して争う戦争の形態であるとされる。

その勝敗が国家の存亡そのものと直結するために、影響は市民生活にまで及ぶという特徴がある。

そういう意味では日露戦争は日本人にとってまさに総力戦だった。

史実のアメリカも日本に対しては戦後に日本人の精神を含めて解体しようとしたから、これも総力戦の延長線上にあった行為であるとされる。


ただし、忘れてはいけないのが、この国家総力戦には自国の総力を挙げて相手の総力を潰すという側面があるという事実で、つまり戦争行為をやり過ぎてしまい、相手国の非戦闘員まで巻き込む恐れが多分にあるという点だ。

武器の発達がそれに拍車をかけ、アメリカが原爆の開発に成功しかけていたという事実が懸念を高めた。


これはウェストファリア条約を無効化させるであろう危険な行為だし、白人たちが決めたこの体制の終焉を意味している。


ウェストファリア条約とは、ドイツ語でヴェストファーレン条約とも呼ばれ、ヨーロッパを中心とする世界史基準において、確実にベスト3に入るだろう重要な出来事で、三十年戦争を終わらせる目的で話し合われた結果、調印された世界初と言っていい国際条約だ。


三十年戦争とは日本では江戸時代初期、徳川家康が死去した2年後の1618年から1648年までの間に、主にドイツにて行われた宗教を原因とする戦争で、カトリックとプロテスタントに分かれて殺しあった。

お互いがキリスト教を信じる仲間にもかかわらず、いや、だからこそ戦争は凄惨を極めた。

宗教戦争はよく言われるように、宗教を原因として始まるから恐ろしいのでは無い。


宗教を原因として終われなくなるから恐ろしいのだ。


お互いが「神がお導きになる」と言いながら殺しあうのは本当に救いがないし止められない。

その悲惨な宗教戦争を終わらせ、ヨーロッパの秩序を構築したのがウェストファリア条約で、結果生まれたのがウェストファリア体制と呼ばれる。

この成果は次の5点に要約することが出来る。


・ルターやカルバンがカトリック教会のキリスト教信仰に抗議プロテストしたことに基づいて生まれたキリスト教の新しい流れである「新教徒」の信仰が認められ宗教戦争が終結した。


・ドイツの約300の諸侯は独立し、それぞれが立法権、課税権、外交権を持つ主権国家であると認められる。→神聖ローマ帝国の死亡証明書と呼ばれる。


・フランスはドイツからアルザス・ロレーヌ(ドイツ語ではエルザス・ロートリンゲン)地方の大部分とその他の領土を獲得した。


・スウェーデンは北ドイツのポンメルンその他の領土を獲得。


・オランダ独立戦争の終結と、スイスの独立の承認


また条約の意義は次の3点に要約することが出来る。


・宗教改革以来の新旧両派の対立を終わらせ、ヨーロッパ中央部を人口及び資源の面でカトリック圏とプロテスタント圏に均等な勢力圏を維持させて新旧両教派の勢力均衡を図った。


・この条約によって、神聖ローマ帝国は実質的にドイツ全土を支配する権力としての地位を失い、ハプスブルク家はオーストリアとそのほぼ東方を領有するだけになった。


・神聖ローマ帝国の実質的解体に伴って、ドイツの領邦はそれぞれ独立した領邦国家として認められた。これによって中世封建国家に代わって「主権国家」がヨーロッパの国家形態として確立したとされている。


とまあ理屈っぽいことを並べてみたが、こんなの読んでも理解できん!という人向けに最も簡単に1行で表現すると次のようになる。


「異端者に対しても生きる権利を認めよう」


どうです?簡単でしょ?

しかし逆に言えば日本人から見たら、さほど難しいとは思えない、こんな簡単なことですら、それまでは実現できていなかったと言えるわけだ。


まさに「暗黒の中世」だ。


この戦争は「最後で最大の宗教戦争」とも呼ばれていて、800万人以上の死者を出した。

人類史上最も破壊的な紛争の一つとされているが、核兵器はもちろん、爆撃機も戦車も機関銃も無い時代の犠牲者と考えたとき、いかに陰惨でおぞましい戦争だったかわかるだろう。


結論としてはウェストファリア条約によって「西欧国際体制」が提唱された、ということであり、異端審問やら魔女狩りといった非科学的残虐行為から抜け出すきっかけにもなった。


そしてイタリアにおける戦争の影響もあって生まれたのが先に述べた「主権国家」であり、この定義は国家の内部においては国家権力が最高の力として排他的な統治を行い、かつ対外的には外国の支配に服する事のない独立性を確保したものだ。

主権国家においては、国家主権の及ぶ範囲の「国民」と「領土」という意識が次第に明確にされる。


主権国家が形成された次の段階として「国際法」という概念が生まれた。

主権国家の利害が対立して戦争となった時、国家間の関係を律する法が必要であると認識されるようになり、西欧国際体制のルールとしての国家間の法律が国際法だった。


更にこれを発展させて「勢力均衡」という概念も生まれた。

これは国際法だけで主権国家間の利害を調整できない場合、戦争を回避する手段として、ある国家だけが絶大な力を持つことがないように同盟関係を築いて、国家間の力の均衡を図るものだ。


こうして近代世界史が始まったと言われているが、所詮は白人同士の決め事であって植民地の扱いは酷いままで、人間として扱われることは決して無かった件はこれまで何度も触れた通りだ。

しかし先ほど述べた総力戦の概念は、ウェストファリア条約で僅かに残った希望を打ち砕く危険なもので、特にこれを言い出したドイツ人には間違いと危険性を徹底的に教え込む必要がある。


そもそも第二次世界大戦は、第一次世界大戦の戦後処理方法を誤ったからドイツが暴走して開始された。

共産主義だけだったら対処できたのに、ナチスまで現れた事で収拾がつかなくなった。

そして第一次世界大戦の原因は、まさに主権国家同士が結んだ複雑怪奇な同盟関係を要因とする。

これは世界秩序の構築が白人主体の考え方ではもはや対応できない限界を示しており、違う考え方を取り入れなくてはいけないことも同時に示している。


もう白人主体では人類の恒久平和を成し遂げることは出来ないのだ。

俺の個人的な意見に留めるが、この「主権国家」の存在こそが戦乱の原因じゃ無いのか?とすら思う。

あまりこれに深入りするとアナーキズム(無政府主義)に至る危険があるからやめておくが。


少なくとも21世紀において、国際法を破った主権国家に対しての罰則や、国際法を守らせるための強制力が無かったというのが最大の問題で、特に国際連合の常任理事国(米英露仏中)が当事者となった国際紛争は解決への糸口すら見出せないままだった。

これは以前も指摘したように「国際連合」と日本で呼ばれている組織が、国際紛争の解決を目的として始まった組織ではないためであり、そういった意味の理念の上では現在の国際連盟の方が遥かに国際紛争を解決する組織として相応しいと言える。


だいたい欧米の白人社会が文明的であると思い込むのも間違いで、我々有色人種の劣等感が生み出したものだ。

あるいは白人自身の宣伝によるものだ。


証拠としてはルネッサンスが挙げられるだろう。

ルネッサンスとは14世紀から17世紀にかけてヨーロッパで起こった大きな文化運動のことを指す。

ルネッサンス、あるいはルネサンス、この言葉はイタリア語で「再生」を意味している。

14世紀から17世紀にかけて、ヨーロッパで起こったこの運動は、まさに「知の再生」と文明の発達を象徴する素晴らしいものであるとされている。

ではなぜルネッサンスが必要だったのか?


それは「暗黒の中世」においてヨーロッパでは文明が後退してしまっていたからだ。

ルネッサンスは絵画の技術が向上したというイメージがあるかも知れないが、それだけに留まらず、天文学を含む科学技術が進歩・再生した。


話は突然変わるが、以下の物品は21世紀ではオシャレなものとして認知しているのではないか?


・フープスカート 下に向かって膨らみのある優雅なスカート

・ハイヒール 

・日傘や傘

・コート、マント

・シルクハット

・香水


ではこれらの物品が発達した背景をご存じだろうか?


俺がこれまで散々イジってきたイタリアは、文化の面では大変素晴らしい歴史を持っていた。

ご存じローマ帝国で、この帝国においては政治や文化もそうだが、生活面においても上下水道が完備されており、人々の生活は大変豊かなものだった。

では時代が進んだ中世のパリにおいてはどうだったか?


実はローマには有った下水道というものが存在しなかった。


だから人々は汚物を路上に放置するしかなかった。

汚物とは人間の出すアレの事だ。

また便所の概念もなかったから、日々出たアレは「おまる」に保管したうえで路上に捨てた。


ついでに言えば日本人が憧れるベルサイユ宮殿には当時トイレが無かったそうだ。

ではどうしたかといえばやっぱり「おまる」を使用していたそうで、貴婦人が着ているイメージのある「フープスカート」も、元はといえば「おまる」にまたがって排泄しやすくしたり、貴婦人たちが植木や茂みで「立ち小便」するのに便利だったので発達した。


そんな路上に放置されたアレを踏まないように、踏んでも最小限の面積で済むように、かかとが細く尖ったハイヒールというものが生み出され、当時は男性も履いていた。

しかし街中を歩く際には地面だけに注意を払えば済む話では無く、油断すると頭上からアレの「空爆」で直撃される危険性があったので、「対空防御」として日傘が発達した。

マントやコート、そしてシルクハットも最初は同じような目的で発達した。

これらは21世紀においてオシャレなものとして日本人は認知しているかもしれないが、きっかけはそんな切実な事情から発達したものだ。


そうなる前に根本的な問題を何とかするべきだったが。

パリのトイレ問題がどうにか落ち着きを見せるのは、なんと20世紀に入ってからだという。


また、ここまで読めば香水が発達した最初の動機もオシャレの為では無いとの想像がつくだろうが、それは日本人には考えられない生活習慣を要因とする。

実は当時のヨーロッパ人は入浴の習慣が無かったため、何日も風呂に入っていないことを要因とする体臭をごまかす為だ。

しかも彼らの生活スタイルは玄関で靴を脱ぐ習慣が無く、家の中まで土足で入っていった。

さらにはベッドのそばまで土足で入っていって、下手をすると靴を履いたまま寝たそうだ。

こんな生活のどこが文明的だ?


そんな不衛生な街を、あの凶悪なペストが襲ったらどうなるか?


ひとたまりもないわけで、恐るべき事態が発生したのも必然と言わねばならないだろう。

ではローマ時代に有ったものが、なぜ引き継がれなかったのか?


それは聖書の影響が大きかった。


聖書には技術的なことが一切書かれていなかった。

これは書かれていなくても不思議でも何でもないのだが、教会は聖書に書かれていること以外は否定してしまったから、必然的に技術力が低下して文明が後退してしまったのだ。

それを取り戻すために始められたのがルネッサンスというわけで、決して素晴らしいものであるとは言えないし、そもそもの話として日本においてはルネッサンスなど不要だった。

何故なら縄文時代から始まって令和に至るまで一本調子で文明が上がり続けており、暗黒の中世などという言葉とは無縁だったからだ。


それは識字率の高さによっても証明できるだろう。

江戸時代において日本人の識字率の高さは異常値と言って良く、しかも「漢字の読み書きが出来る」ことが識字率の基準だった。

「ひらがな」しか読めない庶民を含めたら9割を超えていたとの試算もあるから、世界一の識字率をずっと維持してきたし、文字の読み書きが出来る事は全ての基本となるスキルなのだから、手先の器用さと相まって文化面でも技術面でも優れていたわけだ。


戦国時代においては種子島に流れ着いた2丁の鉄砲を参考にして、国産化に成功し瞬く間に全国に普及していった。

一説には伝来から50年後の戦国末期における鉄砲の数は10万丁にまで増えていたとの話もあるくらいで、豊臣秀吉の動員可能兵力は30万人とも言われていたから、鉄砲の装備率とあわせて間違いなく当時世界最強の陸軍大国だった。


だから秀吉が「唐入り」、すなわち中華の征服に乗り出したのは無謀でも何でもない。

これが原因で明は滅びたし、そんな軍事大国の日本を植民地に出来ようはずもなく、ポルトガルもスペインも先兵として送り込んだ宣教師からの報告を見て諦めるしかなかった。


よって江戸時代においては武装中立が可能となり、外国との付き合いも日本が指定した国、指定した場所でのみとすることが出来たのは日本が強かった証で、他のアジア諸国には到底真似のできない行為だった。


確かに白人たちは特に産業革命に成功して以降は、武力においてもカネの力でも世界を圧倒して、人類の頂点として君臨したかも知れない。

だが、結局それは大量生産、大量消費をもたらし、早くも20世紀においては矛盾が露呈して、地球温暖化、環境破壊の元凶となった。


それに対して江戸時代の江戸はこの点においても凄い街だった。

左翼系の学者が拡散したような古く、暗い街などではなく、21世紀では理想とされるような完全循環型のエコが達成された街だったのだ。

もちろん電気などというものは無いから、自然に任せた生き方をしていて、四季の変化は着物を調節して対応していた。

紙を回収してリサイクルする紙くず屋、割れた陶器を保守する焼き継ぎ屋、古着のリサイクルを行う古着屋、排せつ物の回収を行う肥え汲み屋、灰を回収する灰買い屋など、何でもリサイクルしたし、鍋やキセル、下駄に傘まで何でも修理する専門職人がいた。

結果、特に衣料品は捨てることがあり得ないものだった。

古着は当然リサイクルしたうえに、継ぎはぎを行い、それでもボロボロになったら雑巾になったし、最終的にはカマドの焚きつけに利用し、灰は灰買い屋が回収するといった徹底具合だ。

当然ながらセーヌ川やテムズ川みたいに、糞尿や動物の死体で埋め尽くされた阿鼻叫喚の地獄絵図とは正反対の澄んだ川が流れていて、隅田川の水は飲用可だったという説すらある。


産業革命以降のヨーロッパは「文明」が発達したかも知れないが、それが人類の発展と平和の為にどれほど役に立ち、持続可能な「文明」を育んだのか?

基本的な考えが歪んでいる以上、このままヨーロッパに主導権を持たせるのは危険であり、結論としては何でもヨーロッパの真似をすれば良いというのは完全に間違いで、逆に「文明的」な日本の思想を導入させるべきというものだ。


ここまで読んだ人は何て無茶なと思うかもしれないが、戦争に勝ったら何でも主張できるのだ。

まさに「勝てば官軍、負ければ賊軍」だ。


21世紀の企業活動でも同じだろう。

企業の方針なんて、それこそ星の数ほど選択肢があるだろう。

しかし、業績の良い部門の声が全体に影響を及ぼし、企業の方針に繋がるのだ。

それと同じだが、俺の目指すものは新たな世界秩序の構築による恒久平和の実現を行うことだ。

重いテーマだし、ここが正念場でもある。


それは主権国家に対する国際法違反時への罰則の導入と、国連軍の設置による抑止力。

この二つがハードな意味での力だとしたら、世界の人間が納得するような至高の概念を取り入れたソフトパワーによる統治も同時に実現したい。


本当に忙しくなるな。


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