第39話 その頃の世界情勢①

ここでまた現時点での世界情勢を国別に細かく見てみよう。

五大国は英独露米仏となって力関係に変化がある。

以前のように最強国イギリスを100とするとこんな感じだ。相変わらず独断と偏見なのは勘弁してほしい。


独→70 陸軍に加えて海軍力も増強中 イギリスへのチャレンジャー

露→50 日露戦争で敗退 海軍はほぼ消滅 国内は動揺中

米→45 工業力と金融で国力爆上がり継続中 海軍の成長も著しい

仏→35 国力は横ばい 停滞期か?


五大国以外はこんな感じだ。


墺→25 ドイツのパシリ ビスマルクに馬扱いされる

日→20 日露戦争で勝利し国威と国力急上昇中

土→20 オスマントルコ かつての栄光には遠く及ばず

伊→10 味方にすると恐ろしい国

清→5  まもなく消滅 


次は個別に見てみよう。まずはイギリスから。


■イギリス

大英帝国のピークはヴィクトリア女王と、パーマストン子爵ことヘンリー・ジョン・テンプルの時代だろう。

明治維新とパーマストンが被らなくて本当に良かった。

そんなイギリスだが、この頃は国力の下り坂が見えてきている。

ロシアは日本が叩いたことで弱くなったし、英露協商を結んだから少しは安心だが、その代わりにドイツの勢力伸長が止まらない。

当時のイギリスは3C政策(カイロ・ケープタウン・カルカッタ)にて世界に覇権を唱えていたが、ドイツは3B政策(ベルリン・バグダッド・ビザンチウム)で対抗した。ビザンチウムは21世紀ではイスタンブールと呼ばれている。

こういった経緯もあってイギリスは「光栄ある孤立」を捨て、日本との同盟を選んだわけだが、英独両国の利害は対立の度合いを高めていっている。

特に2度にわたるモロッコ事件を通じて英仏VS独の対立の構図は固まったといえるだろう。


以前も述べたがイギリスは「二国標準主義」を基本としており、海軍力世界第二位と第三位の二国の合計海軍力を上まわっている戦力を必要とした。19世紀末までは第二位がフランス、第三位がロシアだったが、フランス海軍は伸び悩み、ロシア海軍が日露戦争で敗れたことにより、情勢は大きく変化し、1905年からは第二位がアメリカ、第三位がドイツとなった。イギリスはそれぞれ相手を仮想敵国の対象とするようになった。

現在始まっているのが建艦競争というわけで、1906年から1914年の間にイギリスでは45隻、ドイツでは33隻にも及ぶド級戦艦、超ド級戦艦及び巡洋戦艦の大量建造が行われることになり、お互いの国力を削りあうこととなる。

凄い数だがカネは問題ないのか?


■ドイツ

19世紀の間、ヨーロッパ列強は自国の勢力伸長を維持しようとして様々な手を使い、20世紀初頭までに複雑な政治と軍事同盟網を築き上げた。

その主役はプロイセンの宰相オットー・フォン・ビスマルクだ。

彼はウィルヘルム1世をプロイセン国王からドイツ皇帝へ押し上げるために必要な三つの戦争を行った。

プロイセンの周囲にあって強大なドイツ帝国誕生を歓迎しない国々との戦争だ。

まずは対デンマーク戦争においてオーストリアと手を組んで短期間で勝利すると、次はプロイセンに数倍する大国オーストリアに難癖をつけて、、、もとい巧みな口実を見つけて進撃した。普墺戦争と呼ばれる争いだ。

ヘルムート・フォン・モルトケ参謀総長に鍛えられた精兵はまさに機械のごとく進軍し、オーストリア軍主力を7週間で撃破し、ウィーンが視界に入る場所にまで迫る。

ここでビスマルクはウィーン突入を主張する軍人たちを制し、破格に寛大な条件でオーストリアと講和する。

その後の対フランス戦争普仏戦争においてオーストリアに背後を襲われることを恐れたからだ。

戦争目的と意思の統一が出来たビスマルクは偉大な政治家だ。

またこのモルトケは「モルトケの法則」として知られ、21世紀の経営者や管理職の人たちには参考になるだろう。


実際に普仏戦争の際はオーストリアはこの事を恩義に感じて中立を維持し、全力でフランスと対峙することが出来たプロイセンはナポレオン三世を捕虜とすることに成功して戦争に勝利し、プロイセンを核として、ザクセン(フランケンシュタイン)、シュトゥットガルト、ブラウンシュバイク、バイエルン、ワイマールといった25の国々を吸収してドイツ帝国を建国し、ベ・ル・サ・イ・ユ・宮・殿・に・て・ウィルヘルム1世のドイツ皇帝戴冠式を行った。1871年(明治4年)1月18日のことだ。


その後はフランスに報復されることを恐れたビスマルクは、オーストリア=ハンガリー帝国・ロシア帝国間での三帝同盟を交渉したが、オーストリア=ハンガリー帝国とロシアがバルカン半島政策をめぐって対立したため、ドイツは1879年にオーストリア=ハンガリーと単独で独墺同盟を締結した。これはオスマン帝国が衰退を続ける中、ロシアがバルカン半島での影響力を増大させるのに対し両国が対抗するためだった。


1882年にはチュニジアを巡るフランスとの対立から、イタリア王国が加入して三国同盟となった。

ビスマルクはフランスおよびロシアとの二正面作戦を防ぐべく、ロシアをドイツ側に引き込もうとした。

これらは「曲芸師外交」とも呼ばれ、ヨーロッパ中に条約の網がかけられ安定を指向した。

しかし、ウィルヘルム1世が没し、孫のウィルヘルム2世が3代目ドイツ皇帝に即位すると、ビスマルクは罷免され、彼の条約網は重要性が薄れていった。例えば、ウィルヘルム2世は1890年にロシアとの独露再保障条約の更新を拒否した。

その2年後に、ロシアは三国同盟への対抗としてフランスと露仏同盟を締結した。

これに焦ってウィルヘルム2世が仕掛けたのが三国干渉というわけだ。


三国干渉はヨーロッパの出来事とアジアの出来事がお互いにリンクし始めるきっかけになったといえよう。

これは世界史を語るうえで非常に重要なポイントだな。俺が教師だったらテストに出す。


おさらいとしてはイギリスも「光栄ある孤立」を捨て日英同盟を結んだが、それに続いて1904年にフランスと英仏協商を、日露戦争後の1907年にロシアと英露協商を締結した。これらの協定はイギリスとフランス、ロシア間の正式な同盟ではなかったが、フランスとロシアが関与する戦争にイギリスと日本が参戦する可能性が出て、これらの二国間協定は後に四国協商へと発展していくことになる。


イギリスのところでも触れたが、ドイツ皇帝は二度にわたるモロッコ事件を起こして英仏連携を確定させてしまう。

更には合計3回にわたり日本にちょっかいをかけ、黄禍論まで提唱するありさまだ。

最後の1回はもうすぐ炸裂する。

対露仏同盟だけでも大変なのに、いったい何をしているのやら・・・


最終的に英独は主力艦の建造でお互いを追い越そうとした。1906年にイギリスのドレッドノートが竣工、イギリス海軍の優勢を拡大させた。英独間の軍備拡張競争は全ヨーロッパを巻き込み、列強の全員が自国の工業基盤を軍備拡張に投入し、第一次世界大戦に必要な装備と武器を準備した。1908年から1913年まで、欧州列強の軍事支出は50%上昇した。

こういった経緯もあって大戦後の各国は一様に貧しくなり、アメリカの更なる台頭を許す結果に繋がる。


次はロシアだ。


■ロシア

日露戦争で敗北し、国威の低下と国民感情の悪化に悩まされている。

既に日露戦争中に「血の日曜日事件」と「戦艦ポチョムキンの反乱」を経た第一次ロシア革命がおこり帝国は揺らいでいる。

しかしクリミア戦争における敗北とその後の農奴解放、その結果としての先々代の皇帝暗殺事件と、50年以上前から滅びのサインは出ていたとみるべきだろう。

1905年以降は都市部の労働者によるストライキが常態化し、経済力にも陰りが生じ始めている。

更にニコライ2世は私生活においても1904年8月に生まれた待望の男子であるアレクセイ皇太子が血友病で苦しんでおり、この後は祈祷のため「怪僧」グレゴリー・ラスプーチンを宮廷に入れるだろう。

このように現在はまだ大国としての体裁は保っているが、今後は坂を転げ落ちるように国力が落ちていき、最終的には第一次世界大戦中の1917年か、もしかしたらもう少し早い時期に発生するロシア革命を迎えそうだ。

外交的には露仏同盟を基軸として、日英とも協商関係を結ぶ事で対立要因は減少しつつあり、国内問題に注力したいところであろう。

俺としてはロシア革命はもう少し緩やかというか赤軍・共産党の影響力を少しでも削いでおきたいところだ。

介入のタイミングが重要になりそうだ。


そして現在は日露戦争の結果、アジア方面での南下政策を諦め、原点回帰とも言えるクリミアから黒海、バルカン半島へとその視点を移しつつある。

これが結局のところ第一次世界大戦につながるわけだ。

これまでのドイツ皇帝の策は水泡に帰す。

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なんかすさまじいな。

俺自身も既にお腹いっぱいだが後半に続く。

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