第40話 その頃の世界情勢②

さてまだまだあるから頑張って紹介してみよう。


次はフランスだ。


■フランス

この国はブルボン王朝の時代、いやもっと昔のヴァロワ朝時代に起こった百年戦争の時代からイギリスとは犬猿の仲、対立関係であった。

ヨーロッパ以外では北米大陸においてカナダのケベックを領有していたが、イギリスによって追い払われた。

大山捨松がフランス語にも堪能だったのは、彼女の母校であるヴァッサー大学の所在地がニューヨークの北に位置しており、カナダ国境に近い事からフランス支配の名残があったからという理由がある。


そしてフランスはアメリカ独立戦争において、当然のようにアメリカを物心両面で支援してイギリスに一矢報いた。

ニューヨークに自由の女神像が存在するが、あれは戦勝を記念してフランスが贈ったものだ。イギリスへの当てつけとして。

ナポレオンの時代にはイギリスによって第三次から第七次に及ぶ対仏大同盟を結成されて苦しめられた。

19世紀末にはアフリカの権益を巡って英仏は一触即発の事態となるものの、戦争には至らず、逆に伸長著しいドイツという共通の敵に対峙するために接近するようになった。

イギリスの項目で述べた二回にわたるモロッコ事件もその原因の一つだ。

フランスは先にロシアと同盟を結んでドイツを牽制していたが、1904年以降は日英と接近することでドイツ包囲網を完成させようとしている。


簡単に言えば、英仏はもともと植民地獲得に熱心で、餌の取り合いでいがみ合ったが、遅れて国内を統一し、遅ればせながら植民地獲得に動き出したドイツに対しては、連携して追い落とそうとしたという話だ。

国同士というよりも個人の感情で置き換えて俯瞰したほうが分かりやすいかもしれない。


■オーストリア(オーストリア=ハンガリー帝国)

この国は神聖ローマ帝国の核となる部分をそのまま継承しているといえる。

ヒトラーが自らのナチスドイツを第三帝国と呼んだが、これは現在の帝政ドイツを第二帝国、神聖ローマ帝国を第一帝国と定義した結果だ。

ヨーロッパ随一の名門と言っていいハプスブルク家のお膝元でもある。

そして21世紀において世界の人々が「ドイツ」あるいは「ジャーマニー」と呼ぶ地域は本来のドイツではない。本当のドイツはこのオーストリアを指すべきだろう。

というのも民族的にはこの国もドイツ人で構成されるからだ。

今から少し前に「大ドイツ主義」と「小ドイツ主義」の争いがあった。

プロイセンのビスマルクは「プロイセンとその南部諸国の合体したドイツ」すなわち小ドイツ主義を掲げ、オーストリアは「オーストリアを主体とするプロイセンとその南部諸国」をドイツとして統一する大ドイツ主義を主張したが、ドイツの項目で述べたように普墺戦争の結果、小ドイツ主義に軍配が上がり、オーストリアがドイツになることは出来なかった。


オーストリアのドイツ人は自らの国名をオーストリアでは無くエスターライヒ東の国と呼ぶのはそれが理由だ。

その後はドイツのパシリ状態が継続しているのは既に何度も触れたとおりだ。

そして現在、実質的に最後と言ってもいい皇帝が玉座に座っているが、この人はとても残念な人で、その奥さんは変わった人だ。

そもそも現在の国名がオーストリア=ハンガリー帝国というのが残念だ。

第一次世界大戦ではプレーヤーの一人だから、いずれ詳しく触れるかもしれない。

落日の帝国という感じかな。弱り目に祟り目というか・・・


■アメリカ

アメリカとイギリスの関係は誤解されやすい。

この時代以降の日本人は「血の同盟、アングロサクソン同士である英米が団結して日本に対して嫌がらせをした」と評価するのが一般的で有るらしいが、申し訳ないが俺の見解は全然違う。

分かりやすくする為にイギリスとアメリカの関係を強引に日本の戦国時代に当てはめると、織田信長と木下藤吉郎の関係と言ってしまってよいだろう。豊臣秀吉ではなく木下藤吉郎というのがポイントだ。

どういうことかと言えば勘のいい方は理解できるだろうが、アメリカはイギリスの植民地として成立したのだ。いわばイギリス織田信長の「草履取り木下藤吉郎」だったのだ。

それが造反して独立を果たすや、あれよあれよという間に力をつけて、今やイギリス信長を超えようとしている。


イギリスから見るとそれだけでも面白くないのに、この現状はこの先ますます顕在化して、イギリスは第一次世界大戦以降はアメリカからの借金もあって、文句の言えない立場に追いやられていくわけだ。

その結果が日英同盟の一方的な破棄につながる。

それに留まらず軍縮条約では対等を押し付けられてしまう。

イギリスから見てそれは愉快なことかどうかは考えるまでもないだろう。

アメリカも当然そんな事は承知の上だから、少々後ろ暗いというか遠慮があるのは事実だ。

この辺りは流石に鈍感なアメリカ人でも察しているだろう。


一方アメリカと日本の関係は豊臣秀吉アメリカ石田三成日本の関係に近いだろう。

真珠湾攻撃の翌日、アメリカの主要紙の一面にはこんな言葉が躍っている「これは日本の裏切りである」「これは神を冒涜するものである」と。

しかしながら中立国のくせに援蒋ルートで国民党を助け、日本への石油を禁輸し、日系移民を排斥して日本を挑発し、最後通牒に等しいハル・ノートまで突き付けて日本を戦争へと追いやったのはアメリカなのに、自分のことを棚に上げて「裏切り」だの「冒涜」だのとよく言えたモノだが、これは頭に血がのぼって思わず出た本音だろう。

中立国の定義は以前も触れたとおり「双方の敵」でなければならないのだから、これではもうとっくの昔に日本の敵国であって、宣戦布告が少々遅れた事など全く問題にならない。


奇襲攻撃が卑怯と言われる前提は「事前の挑発行為」が無かったことが条件だ。

そして挑発行為はこれまで述べたように散々行われたのだから、真珠湾攻撃を卑怯などと言われる筋合いは本来は全く無い。

そもそも朝鮮戦争も、ベトナム戦争も、湾岸戦争もアメリカは相手に対して宣戦布告なんてしていない。

つまりアメリカ人の言う「リメンバー・パールハーバー」は、たとえ宣戦布告が間に合っても同じように騒いだのだ。

だから21世紀の日本人は気にする必要は全くないし堂々としておればよいと考える。


先程の新聞記事の件だが、ペリー以来、最も日本と親密で、後進国だった日本を指導してきてやったのは俺たちアメリカであるとの彼らの思いがなければ、あんな強い言葉は出てこないだろうし、仮にイギリスが真珠湾を襲ってもこういった表現には絶対にならない。


またこの新聞記事は一般の国民とフランクリン・ルーズベルト政権の意識のズレを見事に表現している。

今までも触れていた通り「日本とアメリカが争うように仕向けられ誘導された」からこそ、このようなズレが生じているわけで、ルーズベルトは日本に対する挑発行為を故意に行ったが、一般国民は日本がアメリカを襲うなんて想像もしていなかったのだ。


では日本とイギリスの関係を戦国時代に置き換えるとどうなるか?

家康日本信長イギリスの関係に近いとすぐに思いつくだろう。

家康に東の背後を任せることが出来た信長は、上洛に向けた行動を開始する。

家康も西の背後を気にせず、北と東に全力を挙げて対処できた。

結局のところ織徳同盟は信長の死まで途切れることなく続き、双方に大きなメリットがあったが、さてどうなるか?

仮に同盟締結早々に家康の方が信長より力をつけてしまったら信長はどう対処したか?とても興味深いし、日英同盟ではイギリスの日本に対する不信につながった。


史実の日英同盟が破棄されたのはアメリカの策謀によるものが大きいが、イギリスにも「強すぎる子分日本」を敬遠し警戒する感情が有ったのは事実だからだが、この世界では当然そんな事は無く、逆に日本に対して恩義を感じているだろう。

獲物を譲ってくれてありがとうと。


また史実における日本三成は中国大陸の権益をアメリカ秀吉に渡さなかったから戦争に繋がったわけだが、現状はイギリス信長が中国大陸に進出していて、アメリカ秀吉に餌を分けていない状態だ。

しかし、いくらイギリスとアメリカがギクシャクしたとしても、日本と争いになったような決定的な対立には至らない。

これまで述べたように根本的な関係性が違うからだ。


秀吉アメリカ三成日本が自分を裏切れば当然怒るだろうが、信長イギリスには怖くて言えないという事だ。

しかしだからこそ、この対立関係はより双方向的で根深く、イギリスとしては第一次世界大戦にアメリカが連合国として参戦することは望まなくなるだろう。

中国問題で噛みついてくるアメリカを疎ましく思い、これ以上アメリカに大きな顔をされるのは避けようとするからだ。

となれば日本の果たすべき役割は必然的に大きなものとなるから、準備は怠りなく進めなければいけない。


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分かりやすくするために強引に戦国時代に当てはめたが、ニュアンスはちょっと違うか?

逆に分かりにくくなったというならご勘弁を!

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それにしても本当に複雑だな。

まるで地球規模の将棋をプレイしている気分だ。

いや将棋だったら消えた味方がある日とんでもない場面で敵に回るから俺には対処できない。

うん。チェスだと思う事にしよう。これも難しいが、まだマシだ。


少しだけ俺の存在が影響を及ぼし始めているが、今後はもっと深く影響を及ぼすようになるだろう。

それは楽しみであると同時に責任を感じることでもある。

気を抜かないで頑張ろう。


それと忘れてはいけないバルカン情勢だが、あまりにも複雑怪奇だから改めて触れよう。

現時点で紹介すると確実に脳が破裂するだろうから。

それ以前に俺の脳が爆発してしまう。

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