第19話 新たな世紀を迎えて

西暦1901年(明治34年)を迎えた。


現在俺のきょうだいは10歳の文麿と5歳の武子、3歳の秀麿と1歳の直麿だ。更に来年には忠麿が生まれる予想だ。


俺は15歳になり去年から学習院中等科に進んでいる。

同級生に著名人は少ないが、一歳歳下に有栖川宮栽仁王(ありすがわのみや たねひとおう)、北白川宮成久王(きたしらかわのみや なるひさおう)、朝香宮鳩彦王(あさかのみや やすひこおう)の3人の皇族がいる。

学業は相変わらず俺にとって退屈だ。特に科学系は間違った事を教えられて辟易している。

これも時代からいって仕方ないとは思う。

科学が未発達なのだ。


だからもっぱら人材発掘というか交流を重視している。

特に先に挙げた皇族三名とは積極的に交わっており親しくなる事ができた。

本来なら相手は皇族だし、いくら俺の身分が高いとはいえそうそう気軽に話していい相手じゃない。

しかし皆さん“あの近衛篤麿公の嫡男“に対して興味津々のようだ。


今の父は陛下の信任が篤い、いやそんな言葉では足りないくらい極めてアツい。

何せ国民病と言える脚気を退治し。

石高を上げて経済を良くし、更に餓死者を減らし。

対外政策を積極的に導いたうえに。

憲法の欠陥にまで気付くという働きぶりだ。

位階も史実より早く従一位に進んでいる。


当然皇族の皆さんも父はどんな人なのか?

今は何に関心を持っているのか?

とても興味を持っておられるのだ。

お陰で退屈せずに済んでいるし未来への布石も実行出来つつ有る。


三人の中で一番やんちゃなのが北白川宮成久王(きたしらかわのみや なるひさおう)

だ。

皇族にしては珍しく市井の事にも興味を持ち街歩きも好きな人物だ。

また美少年としても有名で、とても人気が有る。

この人は将来は陸軍に進む事になる。

俺とは大変ウマが合うから長生きして欲しいが残念ながらこの人は30代で亡くなる。自動車事故だ。

それもフランスで自らクルマを運転しスピードを出し過ぎて事故を起こしているはずだ。

そうならないように教育というか指導しよう。

特にクルマとか機械に興味を持つようになったら要注意だ。


もう一人有栖川宮(ありすがわのみや)栽仁王(たねひとおう)も20歳で亡くなってしまう。こちらは確か虫垂炎だったと思う。

そんな事で皇族が亡くなるのか?と思われるかも知れないがそれが明治の現実だ。

この人については発症したら早めに良い医者に連れていくくらいしか対策はないな。

物凄く気立の良い人で、歳下だが尊敬できる人だ。

またこの人の父君は明治のイケメンランキングが有れば上位に入ると思われる有名なイケメンだが、そんな父親譲りのイケメンだ。

この人は海軍軍人となっていた。


最後の一人である朝香宮鳩彦王(あさかのみや やすひこおう)

は長生きする。

この人も陸軍に進むが北白川成久王のクルマに同乗し交通事故に巻き込まれて重傷を負う。性格的には可もなく不可もなくといったら失礼に当たるか。

まあ皇族らしい人だ。


もしかしたらここまで読んで皇族がなぜ軍人になるのか不思議に思うかもしれないが、これは「ノブリス・オブリージュ」というフランスの考え方によるものだ。

人の上に立つ者にはそれに見合う責任が必要だという考え方だ。


国民を戦場に送り出す王室のメンバーには、国民の範となって戦場で自分の命を危険にさらす責任が必要とされた。

特にイギリスの王族と貴族は国民を守るために戦うのが本分とされた。

日本もこれに倣って少なくとも皇族男子は全員が軍人になる事を始めた。

近いニュアンスの言葉だと「指揮官先頭」といったところか。



俺も今後の進路をそろそろ考えないと。

史実の文麿は一高から東京帝大、次いで京都帝大へ進んだが、俺はどうしようか。


それから4月に皇太子殿下に待望の男子が誕生した。

将来は昭和の天皇になられる裕仁親王殿下だ。

その一方イギリスではビクトリア女王が亡くなり、時代が変わった印象だ。


中国大陸では昨年、史実通り義和団事件が発生し北清事変へと至る。

義和団というのは簡単に言えば外国排斥を唱える一種のカルト教団だ。それに清政府が便乗して外国居留民と外交官を襲った。

それに対して英露独仏墺の五大国と日米伊が八カ国連合軍を組織して対抗した。

この中で最大動員を行ったのは距離の近い日本であり連合軍の主力として戦った。


そしてこの時の日本の振る舞いに好感を持ったのがイギリスで、「光栄ある孤立」政策を捨て日本との同盟論が出ている頃だ。

最大強国イギリスが久しぶりに同盟国を持つという意味は大きい。しかも相手はアジアの小国日本だ。

イギリスとしては中国大陸への野心を隠そうともしないロシアに対して警戒感を露わにしている。


イギリスはこれまでにもロシアが度々不凍港を求めて行動した際にすべて邪魔してきたのだ。

その代表例がクリミア戦争だ。

地政学的に言えば海洋国家は大陸中央ハートランドの大陸国家が大陸沿岸リムランドに来たら本能的に叩くという習性に基づいての行動だ。


更に言えばかなりロシアの行動は露骨だ。

何しろ日本には“世界平和の為に遼東半島から手を引け”と言っておきながら、ちゃっかり自分のモノにしたし、北清事変に際しては最後まで軍を引かなかった為に日英両国が疑心を深めた。

ロシアって日英同盟を結びつける愛のキューピッドみたいなものか?


日本は世界中からイギリスのイヌと言われる事になるだろうがそんな事は気にする必要はない。生き残れば勝ちなんだよ。


それからドイツも油断ならない。またまた日本にちょっかいを出してきた。

ロシアの状況を見て”使える“と思ったドイツ皇帝は日本とイギリスに同盟の打診をしてきた。そしてこの先、日英が興味を示して接近して来たら自分は手を引くのだ。


何故?


日英同盟と露仏同盟を戦わせて自分が漁夫の利を得る為だ。

それにこの皇帝は日本が日清戦争に勝利した際に三国干渉を画策したが、それだけでは飽き足らず黄禍論こうかろんを声高に主張し、ロシアの目をアジアに釘付けにしようとした。黄禍論とは黄色人種をあからさまに目のカタキにする差別的思想のことだ。

最終的にこの黄禍論は後年、アメリカで日系移民排斥へとつながり、日米の火種となった。

だが、最初に考案し拡散したのはドイツ人だ。

イギリス人はこれを無視したが。

汚い愚か者が!このジャガイモ野郎!


うん。

俺の知る世界史と全く変わらん。

今の日本の国力じゃ少々日本の歴史をいじったところで世界に全く影響は与えないのがはっきりしたな。

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