第18話 たまには東京観光しよう②
次に俺たちが向かったのは歩いて30分ほど先にある港区芝の増上寺だ。
ご存じのように徳川将軍家の菩提寺だが、現在の敷地は往時の面影を残していない。
縮小されたのだ。
原因は明治の初めに発布された神仏分離令にある。後年いわゆる廃仏毀釈運動とも呼ばれる事になる。
本筋じゃないから簡単に触れておくにとどめるが神仏分離令を発布した時に、これが廃仏毀釈につながるとは政府は想定していなかった。
これ以上は複雑になるし一冊の本が出来るくらいの話になるのでやめておく。
増上寺も大幅に土地を削られたわけだが、まだ被害は少ない方だろう。
悲惨な寺院は他にもたくさんあって例えば近衛家の、というかウチだけじゃなく藤原氏全体の菩提寺である奈良の興福寺。
あそこの五重塔は綱をかけられて引き倒される一歩手前だった。
後に世界遺産となるのだが。
また隣にある広大な奈良公園も元は興福寺の境内だったのだが、多数の建物が壊され空き地となり現在の姿になった。
それほど激しく廃仏毀釈運動が吹き荒れたのだが、本来の神仏分離令の目的は一つ。近代化の為だ。
西洋列強の侵略に対抗するために天皇を頂点とした挙国一致体制を作る必要に迫られたので、それを強化するイデオロギーとして神道が採用され、国家神道として運用したのだ。
しかしそれまでの日本は平安時代に神仏習合といって神と仏は同じものとされ、本来なら神様と仏様は別物のはずが日本人は両者を一体化させ信仰していたのだ。
そしてそれが神仏分離令により両者は切り離されて今に至る。
そもそも日本の仏教と本来の仏教とはまるで違うものだ。
日本人は外から来たものを取り込んで造り変えるスキルが昔から半端なく高いから。
身近なものではラーメンなんかまさにそうだし。
もし仏陀が日本の仏教の実態を知ったら本来の仏教とのあまりの違いに腰を抜かすだろう。そして次に言うだろう「戒律はどこへ行った?」と。
しかしそんな事は日本人は誰も気にしない。
実におおらかだ。
しかし世界と比較すれば日本人の宗教観は特殊だ。
だいたいが一神教だし、厳格な教義に基づいて行動し、過激な原理主義に走る人達も一定数存在する。特に一神教同士のディスり合いは深刻で終息する気配がない。
実にアンタッチャブルな存在であり、世界の平和に対する重大なリスクとなっている。
その中でもイスラエル問題は第三次世界大戦の主要な要因となった。
これがこじれたことでアメリカの意識が中東に向き、その隙を突いて中露北が侵攻を開始したのだ。
このイスラエル問題の根本的な原因は第一次世界大戦前後のイギリスによる三枚舌外交だ。
それぞれアラブ・フランス・ユダヤに配慮した協定を結ぶが、それぞれに矛盾した内容だった。
つまり「あちらを立てれば、こちらが立たぬ」状態に陥ってしまったのだ。
それをやった理由の一つが第一次世界大戦継続に必要な莫大な戦費をユダヤ人から引き出そうとしたことにある。
カネが欲しかったのだ。
このあたりで既に大英帝国の威信は相当揺らいでいる。
これがきっかけとなり、自身の国家を渇望したユダヤ人による
けれども2000年にわたり空き家にしていたのに、いきなり戻ってきて「ここは神と我々との約束の地だから出ていけ」と言われたパレスチナ人が黙っているはずがない。
混乱の始まりだ。
以上長々と書いてきたが、第三次世界大戦の惨禍を避ける為にも、なんとかこの問題を解決させたい。
そして俺はこの問題に対する一応の解決策を持っている。
パレスチナの地にイスラエルを建国するのは無理筋だから違う形にするのだ。
現時点での成功率は高く無いのだが、時期が来て、環境が整い、ユダヤ人が条件を受入れれば解決可能と考えている。
受け入れるか否かは彼ら次第だが、実現すれば日本にとっても利益は有形無形合わせてかなりのものとなるだろう。
そしてこの案を実現させるためにキーパーソンの一人とは早めに接触したい。
イギリスとの同盟は史実通りにうまくいきそうだから、これから俺が考えなければならないのは時系列順に次の五つだ。
1、日露戦争に勝利する
2、ドイツ包囲網を完成し、第一次世界大戦勝利に大きく貢献する
3、ロシア革命の結果を史実と違うものにする
4、パレスチナにおけるイスラエル建国を阻止する
5、ソ連を倒すための戦略構築を開始する。
やや遠い未来ではあるが5は特に重要だ。
それが最終目的だから。
それには2も3も4も絡んでくる。
俺がこの世界に飛ばされてきたのはレーニンとスターリン、そして共産主義と戦うためだからだ。
日本とアメリカの双方が憎しみあい、戦争に至るよう誘導された結果、スターリンが高笑いするに至ったあの歴史を繰り返させない。
彼らの思い通りにはさせない。
などと考えながらお参りしていると日が西に傾いてきた。
文麿も腹を空かして居るみたいだし帰るか。
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