魔族のモブ兵士に転生した俺は、ゲーム序盤の部隊全滅ルートを阻止するために限界を超えて努力する。やがて下級魔族でありながら魔王級すら超える最強魔族へと成長する。
80 いずれ、勇者になる少年3(レム視点)
80 いずれ、勇者になる少年3(レム視点)
【世界救済会議】の翌日――。
レムはバロンレイド辺境の村にやって来た。
そこにはマリエルの幼なじみの少年がいるという。
身寄りのないかマリエルにとって、家族同然だという少年。
名前は――エリオス。
「……というわけで、マリエルは亡くなりました。すでに埋葬は済ませてあります。こちらの箱に遺骨が」
「うう、マリエル……」
エリオスは嗚咽していた。
呆然とした様子で立ち尽くしつつ、時折その場に突っ伏して号泣を始める。
かと思えば、またボーッと空中を見つめ……と情緒が不安定だ。
本当は一通りのことを報告し、遺骨を渡したら退散する予定だったのだが、
「しばらく、お傍にいますね。エリオスさん」
レムは優しく微笑んだ。
あまりにもショックを受けているエリオスの様子を見て、心配になったのだ。
(本当に、この子がマリエルの言っていた【勇者候補】なのかしら)
どう見ても、気弱な少年にしか見えない。
特別な戦闘訓練を受けた経験もなく、魔法などの超常的な力を持つわけでもないらしい。
どこにでもいる平凡な少年――。
それがエリオスに対する印象だった。
「――誰!」
ふいに妖しい気配を感じ、レムはキッと背後を振り返った。
「っ……!?」
そこには数人の男女が立っている。
どうやら冒険者のようだが――。
「冒険者がこの村になんの用ですか?」
「モンスター討伐のために来たんだ。冒険者ギルドを通じて依頼を受けた」
と、先頭の男が言った。
「モンスター……」
レムはエリオスをチラリと見た。
【勇者候補】とはいえ、今の彼は平凡な少年に過ぎない。
この村がモンスターに襲われたら、巻き添えで死ぬかもしれない。
いや、それ以前の問題として、村を守るために自分が手を貸した方がいいかもしれない。
「よろしければ、私もお手伝いしましょうか?」
「お前が?」
「レム・レドールです。【賢者】という二つ名をいただいております」
「【賢者】……って、まさか世界最強の魔術師レムか……!?」
「噂は聞いてるぞ……」
男たちがざわめいた。
「なるほど、確かにとんでもない魔力を感じる……それに」
男がレムを見て、舌なめずりをした。
「美味そうだな……顔も、体も、魔力もだ……!」
「……!」
レムは不快感をあらわに彼をにらむ。
とびっきりの美少女であるレムは、今までにもこういう目で見られることは数えきれないくらいあった。
彼も、そんなゲスの一人――。
……と思ったのだが。
「こんなさびれた村で『正体』を出しても、バレやしねぇよな!」
ぶおっ……!
彼の体がいきなり膨張し、身長数メートルの怪物へと変化した。
いや、それはただのモンスターではない。
強大な魔力と瘴気を放つ、そいつは――。
「いくら世界最強ったって、しょせんは人間レベルの話だろ? 俺たちの敵じゃねぇ!」
さらに他の冒険者たちもそれぞれ本性を表す。
いずれも魔族だ。
それが全部で五体。
「こんな辺境に魔族が……!」
レムは表情を引き締めた。
美味そう、とは文字通り、彼女を『食料』として見ている、という意味だったらしい。
見たところ、中級魔族だろうか。
レムにとっては大した敵ではないが、ここにはエリオスもいる。
(彼を、それに他の村人たちも守らないと――)
――と、そのときだった。
「魔族……?」
ふいにエリオスが立ち上がった。
「夢の中で……マリエルが言っていた。魔族に気を付けろ、って」
つぶやきながら歩き出す。
「待って、エリオスくん。そっちに行っちゃダメ!」
慌てて彼を止めようとするレム。
「きゃっ!?」
が、彼の肩に触れたとたん、手が火傷を負うほどの熱を感じ、後ずさった。
「な、何……!?」
「そうだ、夢の中で……見た……お前たちが、マリエルを――」
ヴンッ!
エリオスの両眼が――黄金の光を放つ。
そして、その瞳の中には剣の紋章が浮かんでいた。
「勇者の光……紋章……まさか!」
レムが叫んだ。
「お前たちが――殺した! 許さない!」
まさか、彼こそが――。
黄金の光を放つエリオスを、レムは呆然と見つめていた。
****
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