75 最速の決着戦


「お前のパワーは圧倒的だ。攻撃力において、お前は俺を大きく上回っている。けれど――」


 一つ、俺の方が優位な点がある。


 それはスピード。


 奴の巨体は当然ながら『重い』。


 拳を繰り出すとき、蹴りを放つとき――その重い四肢を動かすための『溜め』が生じるのを、俺はここまでの攻防で確認していた。


「その『溜め』の間に最速で間合いを詰め、奴の攻撃が発動する前に俺が攻撃を叩きこむ」


 勝機があるとしたら、そこしかない。


 いわゆる『先の先』だ。


「ほう、面白い」


 悪鬼王が俺を見て、ニヤリとした。


「見せてもらおうか。お前の力を。お前の速さを。我を超えてみせるというなら、存分に――」

「ああ」


 俺は剣を腰だめに構え、前傾姿勢になった。


【突進】するのがバレバレの構えだけど、そもそも俺は自分の狙いを宣言している。


 分かっていても、俺の最速の攻撃は止められない――。




「「勝負!」」




 俺たちの言葉が重なる。


 同時に、俺は地面を蹴った。


 高速で間合いを詰める。


【突進】を発動。

【集中】を発動。


 スキルを重ね合わせ、限界まで加速する――。


「確かに速い……だが対応できないほどの速さではない!」


 と、悪鬼王が俺を迎撃するように体勢を整える。


 駄目だ、反応されてる。


 今のスピードじゃダメだ。


 もう一段階、上のスピードが必要だ。


 ――どくんっ!


 心臓の鼓動がひときわ早くなる。


「――あるぞ」


 もう一つスピードを上げるための『力』が。


 魔族としての『力』を、今こそ全開に――!


 どんっ!


 俺は今まで以上の力強く、地面を踏みこんだ。


【デモンブレイダー】としての身体能力を全開にする。




 コンボスキル――【縮地】。




「っ!? は、速い――!?」


 悪鬼王が初めて驚きの声を上げた。


「おおおおおおおおおおっ!」


 俺はさらに加速していく。


 どこまでも加速していく。


 その動きの軌跡は、さながら黒い弾丸。


 一直線に突き進んだ俺はそのまま跳び上がり、悪鬼王の額に剣を突き刺した。



****

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