61 これから、ミラが目指す道2(ミラ視点)

 そんなある日、ミラの家をゼルが訪ねてきた。


「突然来て、悪いな」


 謝りながら、ゼルは切り出した。


「隊を休んでいるみたいだから、ちょっと気になってさ」

「……ただの休暇だ」

「休暇だっていうことはラヴィニア隊長からも聞いたよ。ただ、本当にそうなのかな……って」


 ゼルがミラを見つめる。


「心配だったんだ」

「何が言いたいんだ?」


 たずねながら、ミラは自分の声に力がないことを自覚した。


 今からゼルが話す内容は、容易に予測できる。


 そのことについて話すのは、気が重かった。


「レキのこと……だよな?」

「……ああ」


 ミラはうなずいた。


「色々考えちまってさ。お前は、どうなんだ?」


 と、ゼルを見つめる。


 彼は真剣な表情でうなずき、


「俺も色々考えたよ。彼女のことを。彼女が、殺されたときのことを」


 ゼルがぽつりぽつりと話し出す。


「レキを守れなかった……その事実は消えない。痛みも消えない。きっと後悔も――でも、俺はまだ生きているんだ。だから、生きている者ができることをしようと思ったんだ」


 言って、顔を上げる。


「彼女が死んでから、ずっと考えていたんだ。俺はどうすべきだったのか、って。もっと上手く立ち回れば、彼女を死なせずに済んだんじゃないか、って……自分を責めたりもしたし、悔んだりもした」

「……そうか」


 ミラはその場にいなかったが、ゼルはその場にいて、レキが死ぬところを目にしているのだ。


 ミラとは違う心の痛みがあるはずだ。


「お前も……いや、お前の方が苦しんでたんだな」


 つぶやくミラ。


「いや、それも違うと思う」


 ゼルが首を振った。


「君だって苦しんでいたはずだ。様子を見れば分かる。レキといい友だちだったんだろ?」

「友だち……か」

「俺は、レキとの付き合いがそれほど長いわけじゃない。ミラはどうだったんだ?」

「んー……だいたい10年くらいの付き合いかな」

「けっこう長いんだな」

「まあ……そうかもな。性格は全然違うけど、妙にウマがあったよ」


 ミラが小さく笑う。


「俺は友だちがたくさんいるタイプじゃないけど、あいつとは……本当にいい友だちだった、って今になってわかる」

「ミラ……」

「普段は一緒にいるのが当たり前だったから、そんな風に意識することはなかったんだけどな、はは」


 ミラはため息をついた。


「いなくなってから気づくんだよな……こういうのって」


 ふいに、目頭が熱くなった。


「レキ、いい奴だったのにな」


 ぽつりとつぶやいた。


 そう、ミラは彼女のことが好きだった。


 自分で考えている以上に、きっと胸の中に大切な存在としていてくれたのだ、レキは。


 だから、悲しい。

 だから、寂しい。


「あたしの……大切な友だちだった……」


 ミラがうめく。

 声が震える。


 胸が詰まるような思いとともに、ミラは涙を流した。


「大切な……」


 言葉にならない。


 ああ、そうか――。


 ミラはやっと分かった。


 自分はただ、悲しみたかったのだ。

 友のために、涙を流す時間が欲しかった。


 ゼルと話しながら、やっと自分の気持ちが整理でき始めた。


 ミラはしばらくの間、ずっと泣いていた。



****

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