53 輝き
「ぐっ……ううう、お、おのれ……」
マリエルがよろめく。
胸元に大きな穴が開いていた。
レキの放った【カオスアロー】によって開けられた穴だ。
そこから黒い煙が噴き出し、マリエルの白い体を少しずつ侵食していく。
「おぞましい瘴気が、私を……私の体を、溶かしていく……あああああ……」
マリエルは絶望したようなうめき声をもらした。
「これで……終わりです……」
荒い息をつきながら、レキが俺の側に寄った。
「ゼルさん、手当てをします」
と、治癒魔法を俺にかけるレキ。
さすがに高位魔族の治癒魔法だけあって、大きく切り裂かれた傷がみるみる塞がっていく。
「ふうっ……」
痛みが一気に引き、俺は大きく息を吐き台sた。
「ありがとう、レキ。【カオスアロー】を使った直後で、まだそんな魔法を使えるのか?」
「ふふ、魔力量だけは自信があるんですよ、私」
レキが微笑む。
「いや、魔力量『だけ』じゃないだろ。君はすごいよ」
俺も微笑んだ。
「君が味方でよかった。本当に頼もしかったよ」
「それはこちらの台詞です。あなたがいたから……あなたが支えてくれたから、私は戦えたんです」
レキが言った。
「あなたがいなければ、私は心を強く保つことができませんでした。本当に感謝しています。私、あなたのおかげで――」
……ばしゅっ。
それは、あまりにも唐突な出来事だった。
レキの右腕と腹部の大部分、それから右足がいきなり消失する。
「は……が……ぁ……」
苦鳴とともに、レキが倒れた。
「えっ……」
俺は事態についていけない。
「くくく……上手く当たりましたね」
背後でマリエルが笑っていた。
「レキっ!」
俺は叫んだ。
倒れたレキは顔面蒼白だ。
「レキ、治癒魔法だ! 応急手当をしろ! 俺が時間を稼ぐから――」
「ご……ほ……っ……」
レキは呪文を唱えようとしたのか、何か言いかけて――口から血の塊を吐き出した。
「無駄ですよ。明らかに致命傷じゃないですか……ふふふ、邪悪が滅びる様を見るのは愉快ですね」
「お前――」
俺はマリエルをにらみつけた。
「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
絶叫と共に向かっていく。
頭に血が上り、完全に理性が吹き飛んでいた。
さっきの【バーストアロー】で剣を失ったので、丸腰だ。
関係ない。
拳で殴り掛かる。
「【
カッ!
マリエルの額から光線が放たれた。
「――!」
俺はとっさに横に跳ぶ。
避けられたのは、半ば偶然だった。
俺が一瞬前までいた地点を、マリエルの光線が薙ぎ払う。
ごがあっ!
床が大きくえぐれ、爆裂して吹き飛んだ。
たぶん、さっきレキに大ダメージを与えたのも、この術だろう。
「あら、避けましたか。やりますね」
マリエルは悠然と微笑んでいる――。
****
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