魔族のモブ兵士に転生した俺は、ゲーム序盤の部隊全滅ルートを阻止するために限界を超えて努力する。やがて下級魔族でありながら魔王級すら超える最強魔族へと成長する。
37 レキ・エヴリットは心の弱さを克服したい2(レキ視点)
37 レキ・エヴリットは心の弱さを克服したい2(レキ視点)
「何……!?」
ヴェラエスが眉根を寄せ、驚いたようにレキを見つめた。
「私は……!」
その全身から魔力のオーラがほとばしる。
ボウッ……!
彼女の四隅にそれぞれ光の柱が立った。
赤、青、黄、緑。
四色のそれらは輝きを増していく。
「ほう……!? まさか四元素魔法を同時に操れるのか……!?」
彼はますます驚いたようにレキを見つめる。
「下級や中級の雑魚ばかりと思っていたが、少しはマシな奴が潜んでいたか……ならば、私も少し本気になってやるか」
と、
ぱきいいんっ。
レキの四方にあった光の柱は唐突に砕け散り、消滅した。
「あ……」
同時にすさまじい脱力感に襲われ、その場に崩れ落ちるレキ。
「……ふん。自分自身でも制御できないわけか。つまらん」
彼はすぐに興味を失ったような顔をした。
「ならば、死ね」
と、レキに右手を向け直した。
そこからまた炎を放つつもりなのだろう。
レキなど一瞬で消し炭にされる。
今度こそ終わりだ……。
レキは絶望感とともに彼を見上げる。
――ぱきん。
次の瞬間、彼が突然石になった。
「これは――【石化】……!?」
「君たち、大丈夫!?」
現れたのは銀髪の美女だった。
ラヴィニア・ジールフォルテ。
高位魔族【メデューサ】の眷属であり、魔界最強と称される騎士団長の一人だ。
そして何よりも――美しい。
レキは彼女の凛とした美しさに、ここが戦場であることさえ忘れ、見惚れてしまった。
と、
ぴし……ぴしり……。
石像の表面に無数の亀裂が走っていく。
「これは――」
ラヴィニアが眉根を寄せる。
「くっ……おおおおおっ……!」
ぱきいいいいんっ。
気合いの声とともに石像が砕け、その中から彼が現れた。
「ふうっ、驚かせてくれるな」
秀麗な顔に怒りをにじませ、彼がラヴィニアをにらんだ。
レキの方は見ようともしない。
眼中にないのだ。
「だが、私をこれくらいで殺せると思ったら間違いだ」
「もとより、六柱将をこの程度で倒せるとは思っていないわ」
ラヴィニアが淡々と告げる。
相手の威圧感に全く動じない。
「すごい……」
レキは思わずつぶやいた。
自分もこうなりたい、と思った。
「君は下がっていてちょうだい」
言って、ラヴィニアが進み出る。
その全身からすさまじい魔力のオーラが湧き上がった。
「すごい――」
レキも魔力量には自信があったが、ラヴィニアは桁違いである。
さすがは魔界最強の騎士団長の一人だけはあった。
が、一方のヴェラエスも負けず劣らすのすさまじい魔力のオーラをまとっている。
完全にレベルが違う。
戦いに入っていけない――。
レキは今までの自信が自惚れに過ぎなかったことを知った。
それから先のことは、あまり覚えていない。
ラヴィニアとヴェラエスの戦いが始まると、その余波から逃れるだけで精いっぱいになった。
あの場にとどまっていたら、巻き添えで死んでいただろう。
が、逃げた先も、やはり激しい戦闘が繰り広げられており、レキはそれ以上戦う気力がなくなっていた。
戦意が萎えていた。
ただ逃げまわった。
レキは、惨めな敗残者だった。
戦闘の中で完全に心が折れてしまったのだ。
やがて覇王戦役が終わり、レキは最後まで生き延びたが、惨めな気持ちは変わらなかった。
もう辞めたいと思った。
けれど、辞められなかった。
あのとき死んだ仲間たちのことが忘れられない。
あのとき最後まで立ち向かえなかった自分の情けなさが忘れられない。
けれど――逃げたままでは終われない。
けれど――立ち向かうのは恐ろしい。
葛藤だけが彼女の中で渦を巻き続ける。
逃げてはいけないという気持ちと、恐怖心の狭間で。
レキの心は囚われ続けている――。
「負けたな、あいつに……俺もお前も」
ミラの言葉にレキはハッと意識を現実に戻した。
「……やっぱり私は、本番になると全然駄目です……」
「落ち込むなって。お前はやればできるんだろ? 俺なんて普通に実力を出して完敗だぞ?」
言いながら、ミラは笑っていた。
「どうして……」
「ん?」
「完敗なら、どうして笑っていられるんですか……?」
思わずたずねる。
あのとき、レキは『完敗』を喫した戦場で打ちひしがれたというのに。
「へへ、ここで終わりじゃないからさ」
ミラが言った。
「上には上がいるし、俺は何度も負けてきた。何度も挫折を味わった。だけど、そのたびに立ち上がればいいだけなんだ」
「……ミラさんは、強いんですね。心が」
「そんなことねーって。この間なんて、ガチ凹みしたぜ?」
レキの言葉にミラは苦笑した。
「けど、そんなときに側で勇気づけてくれたのは、あいつだったんだ」
「ゼルさんが……」
レキがたずねる。
「あなたを、支えた……?」
「ああ。ゼルのおかげで俺がまた立ち上がれたんだ。感謝してる。だから――」
ミラがレキを見つめた。
「お前が凹んでるなら、今度は俺が支えるぜ? あいつみたいに、さ」
「ミラさん、優しいです……」
「はは、優しいのはゼルだよ。あいつの優しさが俺を救ってくれた。だから俺も、あいつみたいにしてみようかな、って」
ミラは照れたように言った。
「凹んでるお前を見て、この間の俺の姿と重なったから……なんとなくな」
「ありがとう……ございます……」
レキは礼を言った。
「でも、具体的にどうすればいいのか……やっぱり分からないんです……」
「まあ、とりあえずは場数を踏むことと――あとは、俺みたいにお前にもゼルに側にいてもらえばいいんじゃねーか?」
ミラの提案にハッとなった。
「……そうですね。今度のクエストは私とゼルさんが組む番……そこで、なんとか――」
強くなるためのヒントをつかみたい。
ゼルの助けを借りて――。
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