36 レキ・エヴリットは心の弱さを克服したい1(レキ視点)

 SIDE レキ



 レキ・エヴリットは高位魔族【カオスメイジ】として生まれた。


 両親はともに魔王軍の幹部であり、貴族でもある。


 レキは二人の強力な魔力を受け継いでおり、両親同様にいずれは魔王軍の幹部になるべく育てられた。


 その期待通り、レキは魔法において優れた才能を見せた。


 地水火風の四元素魔法をすべて使いこなし、強大な魔力による連続攻撃は圧倒的な威力を誇った。


 練習では目覚ましい成績を見せるレキだが、しかし実戦になると話は違った。


 彼女は――実戦に弱かった。


 戦場の空気が苦手だった。


『失敗しても大丈夫』『失敗しても死ぬわけではない』練習と、一つの失敗が取り返しのつかない事態を招くことがある実戦では、精神的な負担がまったく違っていた。


 そう、レキは――精神的な負担への耐性があまりにも弱い。


 とはいえ、彼女は高位魔族【カオスメイジ】の眷属であり、種族特有の膨大な魔力量を備えていた。


 その魔力にあかせて敵を圧倒することで、実戦でも徐々に成果を上げるようになっていった。


 緊張していようと怯えていようと関係ない。


 要は大火力魔法を戦闘開始と同時に撃ってしまえば、それでまず決着がつく――。


 まさしく力押し中の力押しともいえる戦術一辺倒で、彼女は頭角を現していった。


 そんな折、レキは今までに経験したことのない大きな戦いに遭遇する。


覇王戦役はおうせんえき】。


【魔王アーヴィス】と【覇王ロメルディア】による、魔界を二分する大戦争だ。


 レキも騎士団の一人として、その戦争の最前線に立ったのだ――。




「【アイスブラスト】!」


 彼女の放つ氷雪が、敵軍の魔族をまとめて凍り付かせる。


「おお、さすがレキ!」

「俺たちのエース!」


 周囲の兵士たちが歓声を上げる。


 レキは照れながらも、彼らに手を振って応えた。


 ごおおおおおおおっ!


 突然、前方から巨大な火柱が立った。


 その高さは優に数百メートル。


 火柱の中から、真紅の軍服をまとった青年が歩みを進めた。


「あ、あいつは――」

「まさか覇王軍麾下きか、六柱将の一人――」


 兵士たちがおびえた様子を見せる。


「私は覇王六柱将の一人、【業火】のヴェラエス」


 青年が微笑んだ。


 戦場とは思えない静かで穏やかな笑み。


 だが、そんな優しげな笑顔とは裏腹に、彼の全身からは異常なまでの威圧感が放たれていた。


 こうして対峙しているだけで、体が押しつぶされそうなほどのプレッシャーが。


「雑魚どもが――」


 ヴェラエスはニヤリと笑った。


 右手をこちらに突き出す。


 ごうっ!


 そこから火炎が渦を巻いて飛び出した。


 一瞬にして――。


 レキの周囲にいた兵士たちの半分が黒焦げになり、消し炭となった。


「なっ……!?」


 すさまじい火力にレキは呆然となった。


 動けなかった。


 力が、違う。


 次元そのものが違う。


 それを悟り、まったく動けなくなった。


 先ほど敵を一掃して自信に満ちあふれていたレキだが、今の一瞬でその自信は完全に消え失せていた。


 世界には、こんな魔族がいるのか。


 レキの心は自分でも驚くほどあっさりと折れていた。


「私は他にも殺さねばならん相手が山のようにいる。お前たち雑魚に長くかかわっている時間がない。さあ、次で全滅させてやろう」


 ヴェラエスはふたたび右手をかざした。


 殺される――。


 それが分かっていながら、レキは相変わらず動くことができなかった。


 全力で抵抗し、何とか逃げなければならないと分かっているのだが、それこそ蛇ににらまれたカエルさながら、まったく動けないのだ。


「燃え尽きて死ね――」


 ごうっ!


 彼の突き出した手に赤い炎が灯る。


「い、嫌だ……」


 レキはガチガチと震えながらも、うめいた。


 このまま殺されるのは嫌だ。


 このまま無抵抗で殺されるのは嫌だ。


 このまま自分の力を発揮することさえできず、ゴミのように死ぬのは嫌だ。


 私は、こんな場所で終わるような魔族じゃない。


 私は……私は、もっと――。


 気持ちが、あふれ出る。


「うああああああああああああああああああああああっ……!」


 その瞬間、レキは金縛り状態から解けた。





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