35 高位魔族レキ
レキのことはよく知らない。
【カオスメイジ】という魔術師型の種族で、しかも高位魔族だっていう話だけど――。
ちなみに俺は【デモンブレイダー】という下級魔族で、ミラは中級の【ソニックブレイダー】、そしてバロールは同じく中級の【ワーウルフ】だ。
「言っておくけど、こいつは天才魔術師ってことで高く評価されてるからな」
ミラが説明した。
「ん……でも実戦ではまったく結果を出せていないので……しょせんは二流です」
レキがうつむいた。
「せっかく才能があるのに発揮できないなんて、もったいなさすぎるだろ。お前はもっと自信を持て、自信を!」
ミラが力説する。
「はっきり言ってゼルは強い。そのゼルに勝てれば、お前だって少しは自信を持てるだろ」
「あ、もしかして、それで俺とレキの模擬戦を勧めたのか?」
俺はハッと気づいた。
「優しいんだな。ミラ」
「っ……!? ば、ばっか、そんなんじゃねーって! え、えっと、その、ただの興味本位だ、勘違いすんじゃねー!」
ミラは顔を真っ赤にして怒鳴った。
照れてるらしい。
「レキ、君は要するに本番になると緊張するタイプなんだろ?」
俺はレキに向き直った。
「けど、これは練習だ。リラックスしてやってみないか?」
「練習……リラックス……」
――というわけで、俺とレキの模擬戦が始まった。
「ゼル、お前は俺に勝った男だ。いくら相手がレキでも簡単に負けるんじゃねーぞ!」
ミラは楽しそうだった。
完全に観客モードだ。
「まあ、がんばってみるよ」
「がんばってみる、じゃねーんだよ! 勝て!」
ミラが熱くなっている。
「はは、了解だ」
俺は苦笑した。
「連戦になるけど大丈夫ですか?」
レキがたずねた。
「ああ、問題ないよ」
俺はうなずいた。
「気を遣わせたか?」
「いえ、それなら私も全力を出せるようにがんばります……」
どんっ!
彼女から漂う魔力が一気にその『圧』を増す。
「私……本番に弱いですけど、力を出しきることができれば――」
こいつ……っ!?
さっきまでとはレキのまとう雰囲気が違う。
まったく、違う。
はっきり言って、今は異常な魔力だ。
「たぶん、強いですよ……」
突き出した右手に魔力の輝きが灯った。
「【アイスブラスト】」
ひゅおうっ!
無数の氷の塊が押し寄せてきた。
その数は――優に数百を超える。
「う、うおっ!?」
ほぼ無詠唱でこれだけの数の氷を撃ってくるとは――。
「さらに【サンダーアロー】」
ばばばばばばっ!
追加で数百の稲妻の矢が降り注いだ。
「ち、ちょっと待てーっ!?」
レキ、めちゃくちゃ強くないか!?
「くっ……」
剣で魔法を斬ることはできない。
剣士である俺にとって、魔法に対する対処法は基本的に『避ける』一択である。
俺は【集中】し、迫りくる魔法攻撃を一つ一つ見切る。
【集中】しているおかげで、無数の氷の塊も稲妻の矢もゆっくり迫ってくるように見える。
とはいえ、数が多すぎるので避けるのは容易じゃない。
「ちいっ……」
少しでも気を抜けば、直撃を食らうだろう。
「まだまだいきますよ……」
レキが鋭い眼光で俺を見据える。
普段は気弱そうな彼女だけど、いざ戦いの場になると、やっぱり高位魔族だけのことはある。
「【ファイアボール】! 【ウィンドボム】! 【グランドスピア】!」
火球が、風圧の爆弾が、土の槍が――次々と放たれる。
攻撃魔法をここまで連発できるとは――!
俺はとにかく避け続けるしかない。
全速力で周囲を駆け回り、しのいだ。
「まだまだいきます……」
レキの攻撃は強烈そのもので、しかも攻撃の途切れるタイミングがほとんどない。
無数の魔法がまさしく嵐のように叩きこまれる。
強い――!
俺は舌を巻いた。
「……だけど、諦めないぞ」
なんとか反撃に転じるんだ。
俺はレキの動きを注視する。
なんとか、反撃を――。
「……!」
ふいにレキの表情がこわばった。
何かにおびえるように。
なんだ……?
不審に思いつつ、俺はさらに彼女の動きを注視する。
「うう……」
レキはますますおびえた様子だ。
どうしたんだ、一体――?
と、ふいにその攻撃が途絶えた。
今だ!
俺はその機を逃さず【突進】した。
「ひ、ひいっ」
てっきり迎撃の魔法が来るかと思ったけど、レキはその場にへたりこんでしまった。
「レキ……?」
「こ、怖い……ですぅ」
えっ……?
「あーあ。こいつ、ちょっと相手に気圧されたり、劣勢になると、すぐこうなんだよな」
ミラが口を尖らせた。
「反撃されても気にせず、最後まで魔法攻撃で押し切ればいいじゃねーか」
「だ、だめですぅ……反撃されると、もう無理です……」
レキは青ざめている。
なるほど、こんなに強いのに実績がないのは、それが理由か。
たぶん精神的にめちゃくちゃ打たれ弱いタイプだな。
とはいえ、魔法の実力は間違いなく一流――いや超一流だ。
ちゃんと実力を発揮できれば、レキはもっと強くなれるのに――。
もったいないと思った。
俺にできることはないだろうか?
レキが強くなるために、何か協力したい――。
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